5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
「迷宮ごと破壊した!?」
 ギルドの執務室に、マスターの声が響いた。
【スモア、どうしてそんな隅っこにいるの?】
【いや……ここが落ち着くだけだ】
後ろめたいのか、破壊した張本人のスモアは部屋の隅で大きな体を小さく丸めている。
「これにはいろいろあって……」
 フレディが、今日の迷宮での出来事を断片的にマスターに話した。
 スモアが私を守るために結界を破壊したことや、今度はみんなを守るために迷宮を破壊したことを説明する。マスターは驚きはしたものの、怒ることはなかった。
「あの迷宮の特殊部屋に入ったやつの話は初めて聞いたよ。みんな辿り着くことすらできなかったと言うからな」
「入口はメイが罠にかかった時に偶然見つけたんだ。ある意味、メイの手柄といえるな」
「おぉ! さすがメイちゃんだな!」
 マスターに頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。
いろんな罠にかかり続けた結果辿り着けたから、フレディとマレユスさんのおかげもあると思う。それにしても、シーフがいながらあんなにも罠にかかるのは私たちくらいかも。だから見つけられた説もあったりしたら、ちょっとおもしろい。
「昇格の条件である秘宝は持って帰れなかった。残念だけど、俺がSランクになるのはまだ先みたいだ」
「そうか。今回は期待していたんだがな。次の試験内容が決まった時に、是非また再挑戦してくれ」
「そうするよ」
 そっか。迷宮がなくなったから、試験内容も変えなくてはならないのか。
「フレディ――試験をクリアできなかった割に、やけにすっきりした顔をしてるな」
 マスターが、あまり落胆していないフレディを見て言った。
「そうかな?」
「ああ。肩の荷が下りたような、そんな顔してるぞ。……しかし、崩壊したってことは瓦礫の中に秘宝が残ったままなのかねぇ。お前ら、確認していないよな?」
 マスターに聞かれ、私たちはみんなで顔を見合わせる。
正直、脱出することに必死であの時は秘宝など頭からすっぽりと抜けていた。みんなも同じだったろうな――と思っていたら。
「あれ? ……そういえば俺、いっこだけ宝拾ったんだった」
 ルカがもぞもぞとポケットから宝石のようなものを取り出した。ルカの手の中で、青色の石がキラッと光っている。
「その石――ちょっと見せてくれ!」
 マスターはルカが持ち帰った石を細かく確認する。
「書籍に載っていたものと特徴がまったく同じだ。これは〝思い出の石〟だ!」
「……え? そうなの?」
 ここへきて、まさかのダークホースがいた。ルカはカラスになって飛んでいた時に、瓦礫の中で強い光を放っていたこの石を見つけ、そのまま持ち帰ったようだ。
「やったぞフレディ! 仲間の誰かが秘宝を持ち帰ったなら、それはお前の結果となる。フレディはSランクに昇格だ!」
 その瞬間、わぁっと執務室に歓声が上がった。
「すごい、すごいよルカ!」
「ルカ、よくやった!」
 私とフレディは一目散にルカに飛びついた。
「さすがは元泥棒カラス。目の付け所がちがいますね」
「それって俺、褒められてんの?」
「今日は褒めてあげましょう。よくできました」
 普段当たりの強いマレユスさんに褒められて、ルカもご満悦気味だ。
「フレディ、昇格おめでとうっ!」
「ありがとうメイ! 俺がここまでこれたのは、メイがいたからだよ」
 フレディは私を抱き上げる。彼の青い瞳は、さっき見た石と同じようにキラキラと輝いていた。

 その後、秘宝はフレディの意志でギルドに預けることとなった。
 私たちはフレディのSランク昇格のお祝いを、いつもの如くフレディの家で行うことにした。
 みんなで美味しい料理を食べて、大人組はお酒も入ってどんちゃん騒ぎ。マレユスさんはまだ十八歳だけど、フェルリカでは成人とみなされるみたい。
 三人が居間で酔いつぶれたのを見守って、私とスモアは屋根裏部屋でゆっくりと眠りにつくことにした。
【スモア、おつかれさま。ゆっくり休んでね】
【ああ。おやすみ……】
 久しぶりに魔力を解放したせいか、スモアも疲れたようだ。いつもは私より先に眠るなんてありえないのに、今日はもうぐっすりと眠っている。
 私も今日はいい眠りにつけそうだ。そう思い、瞼を閉じようとした瞬間、あることを思い出した。
 ――〝後悔の部屋〟を出る前に、背中に一瞬だけ走った痛み……あれはなんだったんだろう。
 一度気になると、確認せずにはいられない。
 私はスモアを起こさないよう、そーっと体を起こすと、光魔法で僅かに灯りを点け、部屋にある姿見で自分の背中を確認した。
 そして、私は鏡に映ったものを見て絶句する。……背中にあった丸いほくろが、綺麗な星模様に変わっていたのだ。これって……。
 私はミランダさんに教えてもらった、真聖女の特徴を思い出す。
『真聖女――百年に一度、神の加護を受けて生まれたと言われる稀少な存在。生まれながらにして凄まじい魔力を持ち、神からの授かりものと言われている。特徴は金色の瞳に、背中の星模様』
 背中の星模様を見つめる私の瞳は、金色に光っていた。……真聖女ってまさか、私だったの!?
「……!」
 私はそのままドサリと布団に倒れこみ、気絶したように眠りについたのだった。
 
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