5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
 翌朝、目覚めると目の前にグレッグさんの姿があった。私が急に起きたことに彼は驚き、大きな声を上げていた。どうやら、朝食の準備ができたので私を起こしにきてくれたらしい。
 グレッグさんの心遣いに感謝しながら身支度を整え居間に向かうと、スープとパンが用意されていた。ありがたくそれらをいただくと、グレッグさんが私に言う。

「メイ、さっそく初仕事に行かないか?」
 初仕事――つまり、依頼をこなしに行くということか。
「ぜひ!」

 一刻も早く冒険者として一人前になり報酬を得たいので、私は前のめり気味に即答した。
 最初だから、きっと簡単な仕事を選んでくれるはず――。

「よし! それじゃあ準備が完了したら、全員で森にモンスターを討伐しにいくぞ!」
 私のそんな考えは、一瞬で打ち砕かれてしまった。
「えっ! で、でも、昨日マスターが危険な依頼に行くのはまだだめだって……」
「問題ないわよ! 相手は雑魚モンスターだし、メイには私たちがついてるんだから!」
「そうそう。メイちゃんは俺たちの後ろに隠れて、ちょっとしたサポートをしてくれるだけでいいんだぞ~」

 右肩にコーリーさん、左肩にはチャドさんの手がぽんっと置かれ、両側から私を安心させるような言葉を優しく囁かれる。

「メイ、簡単な依頼をこなしてもランクは少ししか上がらない。これはメイのランクアップのためでもあるんだ。ランクが上がれば報酬も上がるし、こなせる依頼も多くなる。いいことだらけなんだぞ」
 なにも心配いらないというように、グレッグさんは私に笑顔を向けた。
「いいことだらけ……」
 たしかに悪い話ではない。三人は高ランク冒険者。私はモンスターというものを実際見たことがないのでわからないが、勝ち目のないモンスターに挑みに行くほど、三人が馬鹿とは思えないし……。
「俺たちの力を使って、少しでもメイの役に立ちたいんだ」
「グレッグさん……」
 なにより、何者かもわからない私にここまで優しくしてくれた人たちの頼みだ。
「わかりました! 一緒に行きます! モンスター討伐!」

 私は、三人のことを信用することにした。
 私がそう言うと、彼らは嬉しそうに顔を見合わせて笑い合った。
 その後は急いで準備をし、モンスターのいる森へと向かった。……私は防具や武器を持っていないので、準備もなにもなかったけど。
 身ひとつの丸腰な状態でモンスターを倒しに行くのは怖い気持ちもあったが、前を歩く三人のたくましい背中を見ると、そんな気持ちもだんだんと薄れていくように感じた。

 ――大丈夫! 私には強い味方がいる!

 心の中で自分にそう言い聞かせ、ひたすら森の中を進んでいると、ひとりの男性と出くわした。
 背中には、グレッグさんと同じように剣を背負っている。おそらく彼も冒険者だろう。
 風になびく銀色の髪があまりに綺麗で、おもわず見とれてしまった。

「見ろよ。あいつまたいるぞ」
 私がぼーっと銀髪さんを見つめていると、前を歩いていたグレッグさんが彼を指さした。
「おい! お前もここにいるってことは、ブラックウルフの討伐か?」
 グレッグさんが銀髪さんに向かって叫んだ。
 ブラックウルフというのは、今回依頼を受けた討伐対象のモンスターだ。
 彼はグレッグさんを無視して、私たちの先を歩いて行く。
「無視かよ。感じ悪いなぁ。できもしない依頼のためにわざわざこんな森の奥までくるなんて、相変わらず変なやつだぜ」

 その言葉に、チャドさんとコーリーさんがぷっと噴き出した。三人ともにやにやとした、人を馬鹿にしているような笑みを浮かべている。……感じが悪いのはどっちだか。私はこのとき初めて、三人に微かな違和感を覚えた。
「メイも覚えとけよ。あいつはメイと同じ、最弱Fランクの冒険者なんだ。弱すぎてどこのパーティーにも入れてもらえないかわいそうなやつなんだよ。なのに持ってる武器や防具だけはいいもん使いやがって……装備品が泣いてるぜ。メイはあんな大人になるなよ」
 わざとなのか、前を歩く銀髪さんに聞こえるくらいの大きな声でグレッグさんは言う。私はなにも言い返すことなく、沈黙を貫く。

 私には、彼はそんなに弱そうには見えない。

 すると突然、たくさん生えている木の間からお目当てのブラックウルフが飛び出してきた。コーリーさんが雑魚だと言っていたように、サイズも小さくあまり強そうには見えないモンスターだった。
 初モンスターに若干興奮していると、いちばん近くにいた銀髪さんが剣を抜き、ブラックウルフに襲い掛かる。しかし、腰が引けていて、攻撃がまったく命中していない。
 その間にもう二匹現れたが、グレッグさんたちがあっという間に倒していった。やっぱり高ランクなだけあり、実力は本物みたいだ。

「ちっ。まだやってんのかよ」
 一匹の小さなブラックウルフを相手に手こずっている銀髪さんを見て、グレッグさんが舌打ちをした。
 そして、ずかずかと大股でラスト一匹のブラックウルフのもとへ歩いていくと、苦戦する彼を嘲笑うように目の前で一気に剣を振り下ろした。
 一撃で対象を仕留めたグレッグさんは、満足そうに鼻で笑う。
「邪魔だ。どけ!」
「きゃっ……!」

 そう言いながら、なにもできず立ち尽くす銀髪さんを思い切り拳で殴るグレッグさんを見て、私は驚きの声を上げた。 
 暴力をふるう必要なんて、絶対になかったのに。
 銀髪さんは殴られた衝撃でその場に倒れこむ。グレッグさんは何事もなかったように、笑顔で私のところへ歩いてきた。

「見てくれよメイ。殴った拍子にあいつの防具に手を掠めて怪我しちまった」
 差し出された手を見ると、小さな傷から血が垂れていた。
「地味に痛いし、昨日みたいに治してくれないか?」
 ……こんなちょっとした傷、わざわざ魔法で治すほどなのか。そう思ったけど、口には出さずに飲み込んだ。
「やってみます」
 昨日やったみたいに、傷に手をかざす。しかし、なにも反応がない。
「……どうしたメイ、できないのか?」
「あれれ? どうしたんだろ」
 しばらくやってみたものの、結局私が昨日のように治癒魔法を発動することはなかった。
「ごめんなさいグレッグさん。昨日はできたのに……」
 まだきちんとやり方がわかっていないから、発動できなかったのだろうか。
「……んだよ。昨日のはまぐれだったってことか」

 治癒できなかったことに焦って頭を下げると、頭上から今まで聞いたことのないグレッグさんの低い声が聞こえた。
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