5歳の聖女は役立たずですか?~いいえ、過保護な冒険者様と最強チートで平和に無双しています!
 その後、私がフレディさんの傷に触れると、あっという間にすべての傷が塞がっていった。あんなに大きな肩の傷さえ、一瞬で治すことができた。
「……できた!」
 もう使えないと思っていた魔法を使えたことに、自身でもびっくりして歓喜の声を上げる。もちろん、フレディさんが無事でいられたことがいちばんうれしいけれど。
「……う、ううん?」
 苦しそうにしていたフレディさんは、小さな唸り声を上げて静かに目を開けた。
「あれ、痛くない……?」
 痛みと熱から解放されたことに気づき、フレディさんはゆっくりと上半身を起こす。そして、左手で重症だった右肩に恐る恐る触れた。
「治ってる……。肩だけじゃなくて、ほかも全部」
 自分の体をあちこち触りながら、フレディさんは信じられないといった表情を浮かべた。
「まさかこれ全部、君がやったのか?」
「はいっ! フレディさんが助かって、本当によかったです!」
 フレディさんに微笑みかけると、彼は目をぱちくりとさせた。
「ここには俺と君以外誰もいないし、状況的に信じるしかなさそうだ。さっき傷を撫でられた時も、君からは不思議な力を感じた」
「ふしぎ?」
「ああ。言葉にするには難しいんだけど……俺は救われた気持ちになったんだ。それより、まだ幼いのにとんでもない魔力を持っているんだな。将来聖女として大成を遂げそうだ」
「聖女?」
 聞いたことはあるが、どういった役職なのかがいまいちピンとこない。
「え。君、聖女じゃないのか?」
「そういうのまだよくわからなくて。フレディさん、教えてくれますか?」
 両手を合わせてお願いすると、フレディさんはふっと柔らかく笑った。
「いいよ。教えてあげよう。ここでは聖女っていうのは、大まかに言うと強大な回復や治癒魔法を使える者たちのことを言うんだ。ランクの高い聖女なんかは、祈りを捧げることで魔力を発動して、国をモンスターや災害から守ったりする役目も果たしてる」
「ふんふん。なるほど……」
 フレディさんの話を、相槌を打ちながら聞く。つまり、治癒魔法を使える私はパーティーの中では〝聖女〟という役割ということね。フレディさんやグレッグさんのように剣を持って戦う人たちのことは普通に〝剣士〟とか呼ぶのだろうか。
 ひとりで真剣にそんなことを考えていると、フレディさんがくすくすと笑い始めた。
「フレディさん? なにかおかしなことありましたか?」
「いや。ごめん。君は見た目や声は幼くて可愛らしいのに、話し方がとても大人びているからギャップがすごくてつい」
 その言葉に私はぎくりとした。
 当たり前だ。子供なのは見た目だけで、中身は二十歳の大人なのだから。
 返す言葉が見つからず、私はただ愛想笑いを浮かべていた。
「ところで、今更なんだけど、君の名前はなんていうんだ?」
 フレディさんに言われて、まだ自分が名乗っていないことに気が付いた。
「私はメイっていいます」
「メイか。名前もかわいいんだな」
 さらっとキザなことを言ってのけるフレディさん。
 子供相手だから言っているのかもしれないが、そんな褒め言葉を言われ慣れていない私はドキッとしてしまう。
「じゃあ、改めて言わせてもらおうかな」
 フレディさんは私の両手を取り、まっすぐと私を見つめた。
「俺を助けてくれてありがとう。メイ」
 そう言って、ぎゅっと手を握られる。あたたかな手のぬくもりと、優しく細められた瞳から、私への感謝の気持ちが伝わってくる。うれしいような、くすぐったいような感覚だ。
 しかし、それなら私だってフレディさんにお礼を言わなければいけない。命を助けられたのは、こちらも同じだから。
「私こそ、助けてくれてありがとうございます! フレディしゃんっ! ――あ」
 いい雰囲気だったのに大事なところで噛んでしまい、恥ずかしくて自分の口をすぐさま塞ぐ。
 顔が熱い。きっと、トマトみたいに赤くなってることだろう。
 上目遣いでちらりとフレディさんを見つめると、あまりに恥ずかしがっている私を見て、フレディさんはプッと噴き出した。 
「ふっ……はは! やっぱりかわいいな、メイは」
 私の頭をぽんぽんと撫でる彼の顔は、出会ったときには想像もつかなかった、無邪気な笑顔だった。

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