錬金術師のお姫様
『すみませんサクラ。目にゴミが入ってしまったようなので、見ていただけますか?』

 そう言ってロキが長身を屈ませる。
 何年一緒に居ても近づく度にドキリとする白皙の美貌を見ると、夜明け色の瞳(左目)に涙が浮かんでいた。

『あ、まつ毛が入っちゃってるみたい。ちょっと待ってね』

 サクラがハンカチで触れると、ポロリと滴がこぼれ落ちる。

『……ちょうど涙と一緒に取れたみたい』

 言いながらハンカチをしまい、大切に持ち帰った。


*


 媚薬を作る、はずだった。

 一口飲むだけで気分と肉体が高揚し、目の前にいる人物に恋い焦がれ、その存在を欲して欲してどうしようもなくなるような。

 そんな媚薬を作る、はずだった。

 摘みたての薔薇の花びら、晴れた日の朝露のしずく、静寂の月光の結晶、風が吹く丘で作られた黄金葡萄のワイン。それらを錬金術専用の釜で煮てクリスタルの瓶に移し三日間置いておく。

 そして仕上げに薬を飲ませたい相手──ロキのまつ毛を入れれば、薄紅色の可愛らしい液体として完成するはずだった薬。

 けれど最後の材料を入れる前とは比べ物にならないほど膨張し、粘度と量を増やしたソレは視界を覆うほどの紫色のスライムとなって瓶から溢れ出す。

「え、え?」

 調合の失敗。
 その原因を考えようとする前に、スライムが触手を生やし確実な意志を持ってサクラを捕らえた。

 ギチリ。と両手首を拘束されベッドへと引きずりこまれる。

「な──?!」

 王女の豪勢な寝台は華奢な身体に衝撃をさほど与えなかったが混乱した頭が追いつかない。

「ひ……っ」

 ぬるぬると肌の上を這いずり回る透明な紫。
 しばらくは腕や膝下だけを撫でていたその色がナイトドレスの胸元へ侵入する。

「いやぁ……!」

 抵抗しようにも手首は他の触手に後ろで束ねられていて。
 調合を済ませた後は寝るだけのつもりで下着(ヴィスチェ)を着けていなかった豊かな膨らみはあまりにも無防備だった。

「やっ、何っ、やだ……!」

 王族という立場ゆえに、湯浴みを他人に手伝われることにはなれているが、こんな快楽を誘うような動きは与えられたことがない。

 ジンっ……とした甘い痺れが先端を尖らせていく。

「なんで……!」

 いつもならどんな些細な変化でもサクラに関することは見逃さず、即座に守るはずのロキが現れない。

 考えられる可能性は2つ。

 それほどの異常事態がこの国に起きている。
 もしくは──サクラがこうなっている原因こそがロキの意志によるもの。

 そのどちらかだ。

「────!」

 触手が、純潔を確かめるように下着をなぞる。
 

「ロキ……! ロキぃぃッ!」



「──まったく。サクラ、貴女は何をしているんですか」


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