政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 会長は私が専務を誘惑していると思っているのだろうか?

(大丈夫ですよ。専務は私になんて落ちません……)

 大きく息を吐いてから、会長室の扉をノックした。

「失礼します。コーヒーをお持ちしました」

「はい」

 役員室の中で一番大きな会長室。

 その広い部屋で、須王会長は大きな窓ガラスを背中にしてデスクに座っている。

 外の明るさが後光となって須王会長に影を作り、その影が恐怖の塊のように見えてくる。

「ありがとう。君のいれてくれるコーヒーはおいしいからね」

「ありがとうございます」

 お世辞だけを受け取って、早々にこの伏魔殿から逃げようとして体の向きを変えると、背中から
「実は君にお願いがあってね」と、須王会長の声がした。

 振り返ってみた会長の口元はニッコリと笑っているが、私を見つめる目は笑っていない。

「はい」

 逃げるのをあきらめて、姿勢を正し会長に向き直った。

(絶体絶命)

 心でそう呟き、大きく息を吸ったとき、ガチャっと扉が開いた。
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