政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 挨拶もなくいきなり入ってきたのは、出かけていたはずの須王専務だった。

「専務?」

「吉月、行っていいぞ」

 会長を振り返ってみたが、会長はムッと眉をひそめて息子である専務を睨んでいる。

 行っていいものかと戸惑う私に、ひときわ優しい微笑みを向ける専務は「さぁ」と促した。

 その手は、開け放った扉を押さえている。

 専務の横を通り、私は会長室から出た。

「……失礼します」

(どうしたの?)

 行儀は悪いけれど、そんなことは言っていられない。なにか聞こえないかと扉に耳をあててみたけれど会長室の扉は厚くて、なにも聞こえてこない。

 仕方なくあきらめて、自分の席に戻った。

 会長が言いかけたことは、何だったのか。お見合いは断ったから二度はないと思うけれど、いずれにしてもいい話ではないだろう。

 仕事をしようと思ってパソコンに向かったけれど、気になって集中できない。

 なんとか機械的に指先を動かし、待つこと三十分。

 須王専務が戻ってきた。

「専務」

 慌てて席を立った。

「悪かったな、会長の戯言に付き合わせて」

「いいえ、私はなにも」

「よく言っておいたから、心配ないよ。もう呼ばれることはないから」

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