政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 アルコールが入っているから無理よね、と思いながらクスっと笑う。

 会社でアイリッシュコーヒーはいれられない。

 温かいコーヒーは、喉を温めながら伝わり落ちて体の奥を熱くする。

 専務が幸せになるのを見届けてからと思っていたけれど、もう無理かもしれない。

 叶わぬ恋。

 青扇学園時代、幾度となく身分違いの恋を見かけた。

 一方だけが御曹司や令嬢だった恋は、たとえその恋が本物だとしても長くは続かなかった。

 どちらかが、ふと気づくのだ。やっぱり無理だと。

 ブブブ。

 飲み終わるのを待っていたようにスマートホンが震えた。

 弟の蒼生からの電話だ。

『詐欺師見つかったよ!』

「え? ほんとに」

『詐欺師が捕まったんだよ。マンションは手放すしかないけどいくらかのお金は返ってきて、借金は完済できそうなんだ』

「そうなの? よかった」

 喜んで電話を切った途端、真逆の思いが込み上げてきた。

 これで、この先もtoAで働かなければならない理由が一つ消えた。

 自分の気持ちを支えていた大義名分が形を失い粉となって、指の間から零れ落ちるようだった。


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