竜王様、ご飯の時間です and more ! 〜竜王様と転生メイドのその後〜
 馬車の中で竜王城を出てからのことを聞かれるかと思いきや、会話もなけりゃ目も合いません。竜王様は、ず〜っと黙って外の景色を見ているだけです。向かい合って座っているだけに、なんか気まずいこの沈黙。だからと言って無闇に話しかけるのも、竜王様に嫌がられそうだしなぁ。私も竜王様の視線を追って、窓の外を見ました。
 数ヶ月という短い期間でしたが、そこそこに見慣れた景色が流れて行きます。
 ちょっとした料理だけど、立派に身を助けてくれたなぁ。怖そうなお兄さんたちに絡まれそうになったけど、美味しい料理で救われたなぁ……なんて。あ、なんかセンチメンタルな気分になってきちゃった。涙出そう。
 ぎゅっと目を瞑って紛らわしていると。
「いつでも戻ってこいとか言っていたが、戻らせる気はないぞ」
 ずっと黙って外の景色を見ているとばかり思っていた竜王様が、いつの間にか私を見ていました。『いつでも戻ってこい』……って、ああ、別れ際ののシャトルーズさんの言葉ですね。
「あれは社交辞令ですよ。私みたいなポンコツが戻っても歓迎されません」
「そんなことはない。少なくとも竜王城の者たちは喜ぶ」
 そう言う竜王様の表情は嘘をついてるようには見えないけど、迷惑しかかけてない私が帰ってきたところで、ほんとに喜んでくれるかしら? 百歩譲って厨房のみなさんは仲良くなってた分、喜んでくれるかもしれないけど、執事のフォーンさんだけは頭を抱えると思います。うん、絶対。
「だといいですけど……そういえば」
「なんだ?」
「ここは都からかなり離れたところなのに、よく私の居場所が分かりましたね」
 なにせ定期便さえ通っていないド田舎です。いくら竜王様とはいえ、広い領土の隅々まで逐一リアルタイムで把握なんてできないでしょ。それに、竜王様の手先——都からのお遣いの人なんかも見かけなかったし。

「こう見えて——」
 ずいっと身を乗り出す竜王様。
「な、なんでしょう?」
 反射的にのけぞる私。

「出来る限りの手は尽くしたからな」
「そ、そうなんですか? どんな?」
「初めはスプルースに術で探させた」
 スプルース様の〝術〟って……魔法はそんなことにも応用できるんですか! 魔法って便利ですね。でも、なんとなくイメージだけど、魔法を使えば一瞬で居場所でもなんでも見つけられるような気がするんだけど?
「魔法で探すのは時間がかかるんですね」
「いや、本来ならばすぐに見つけられたさ」
「?」
「ライラは竜王国人ではないから、気配が魔法に反応しなかった」
 だからスプルース様の術での捜索は失敗したそうです。
「では、ますますどうやって見つけたんですか」
「最終的には旅人からの情報だ」
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