桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
……この人は見た目よりも狡い人だな、と思った。こんな風に優しく触れられれば「嫌だ」と突っぱねてしまう事も出来ない。
どうして嫌いだという癖に、大切なものにでも触れるかのような手つきで私の髪を梳いてくれるの?
「優しくしないでくれませんか、後から傷付くのは嫌なんです」
「君を傷付けたくて優しくしているつもりはない。なぜ杏凛はそうやって俺の事を遠ざけようとする?」
私が匡介さんを遠ざけようとしている? そんなつもりではなかったけれど、少なくとも夫である彼はそう感じていたことになる。
でも思い出してみればそうかもしれない。結婚前は匡介さんの視線が気になって傍に寄ろうとはしなかったし、今でも彼が近寄れば自分は一歩下がっている。
「それを知ってどうするんですか? まさかこんな契約妻のご機嫌取りをするなんて言わないですよね、鏡谷コンツェルンの御曹司である貴方が」
言い過ぎた、そう気付いたのは匡介さんの眉間にハッキリとしわが刻まれてからだった。彼は優しく梳いてくれていた髪から手を離すと、ベッドから一歩下がり大きく息を吐いた。
「……杏凛、俺は君の前でも鏡谷コンツェルンの御曹司でいなければいけないのか? 俺は妻の前ではただの鏡谷 匡介でいたい」
「……すみません」
もしかして私が想像していた契約結婚と、匡介さんが思い描く二人の関係は全く違っていたりするのかもしれない。だって、匡介さんは私に素の自分を見せたいと言っているようなものだったから。