桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜
「匡介さん、無理してませんか?」
店長と奥さんがキッチンの奥で調理を再開したのを確認し、私は小声で匡介さんに聞いてみた。
このお店は結構昔からあるそうで、お世辞にも綺麗だとは言えない。鏡谷コンツェルンの御曹司である匡介さんを連れてくるべきでは無いのかもしれないけれど……
「何故だ? 俺が無理をする必要があるのか、この店には」
匡介さんはこの店の雰囲気も、薄汚れた店の外観や内装を全く気にする様子はない。匡介さんならそうなのかもしれないと思ったけれど、やっぱりこの人は見かけばかりを気にする様なお坊ちゃんでは無かった。
「杏凛ちゃん、イケメン旦那様も同じメニューで本当に大丈夫?」
「はい、今日は夫に私の好きな物を食べてみて欲しいんです」
そう言って匡介さんを見上げると、何故は口元を手でかくし私から目を背けている。私は何かおかしなことを言ったのかしら?
「匡介さん、どうかしましたか? 具合でも悪いのでしたら……」
「いや、大したことじゃない。それにしても……人の良さそうな店主と奥さんだ」
調理場で協力して働く二人の様子を眺めながら、匡介さんも小さく頷いている。彼にも店長たちが素敵な夫婦に見えているのだろうか。
……この二人は私にとって理想のようなもの。ずっとこの夫婦の仲睦まじさに憧れてきたのだから。