彼と彼女の取り違えられた人生と結婚

 心地よい光がカーテンから差し込んできて、ウトウトと目を覚ました樹里は、目の前に逞しい胸がありハッとなった。

 昨夜…私…。

 昨夜の事を思い出すと、樹里はちょっと赤くなった。

「おはようございます。ぐっすり眠れましたか? 」

 優しい囁きに樹里はドキッとなった。

「おはようございます。…はい…眠れました」

 照れ臭そうに答えた樹里の頭を、柊がそっと撫でてくれた。

「俺もぐっすり眠れました。こんなに穏やかな気持ちになれたのは、久しぶりです」
「私も…」

「今日は休みなので、この後一度家に戻って。それから、ショッピングモールに行きませんか? 色々と買いたいものがあるので」
「はい…」


 一緒に買い物なんて、行ってはいけないと思っていた。
 だって今でも結婚の事は公にしていないのだから。

 結婚するとき。
 会社が大変な時もあり、婚約者にお金を持ち逃げされた事もある事から柊と樹里が結婚した事は公にすることはやめようと話し合った。
 マイナスだったお金は、宇宙の実家から援助してもらった事にして丸くおさめたのだ。

 その為。
 樹里はいつも暗くなってから宗田家に帰ってきているのだ。




 モーニングセットをルームサービスで注文して、ゆっくり食べてからチェックアウトした柊と樹里は、そのまま駐車場に止めていた柊の車で宗田家へ戻って行った。

 帰りの車中では特別な話はしなかったが、前よりは距離を感じなかった。

 沈黙している車内でも、どこか解りあえているようで安心する空間だった。

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