彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
「ここに座って」
ソファーに樹里を座らせた宇宙は、手際よくティーセットでお茶を入れてくれた。
温かい緑茶を白いカップに入れてくれた宇宙。
心地よい緑茶の匂いが、なんとなく穏やかな気持ちにさせくれるように感じた樹里。
「夜は冷えるから、先ずは温かいものを飲んで」
そう言われて一口緑茶を飲んだ樹里は、今まで飲んだことがないとても美味しい緑茶にちょっと驚いた。
「こんな夜中に呼び出してごめんね。ずっと、話したいと思っていたんだけど。チャンスがなかったんだ。ねぇ樹里ちゃん、机の上の写真を見たんだよね? 」
「…はい、見ました」
「そっか。それならきっと、傷ついているよね? …ずっと、探しているお母さんが写っているんだから」
探しているって…知っていたの?
ギュッと拳を握りしめた樹里は、俯いてしまった。
「樹里ちゃん。先ずは、先に話さなくてはいけない事があるから聞いてほしいんだ。きっと、樹里ちゃんがこの家に来てくれたのは運命だと思っているんだ」
運命? なにを言い出すのだろう?
黙ったまま樹里は俯いていた。
「実は。僕には、28年前に行方不明になった娘が一人いるんだ。産まれて間もない頃に、誘拐されてしまって見つからないままで。未だに手掛かりも見つからないままで…妻も亡くなる寸前まで、ずっといなくなった子の事をずっと気にかけて自分を責めていたんだ。…きっと生きていると、今でも信じている」
行方不明の娘と私が何か関係があるの?
そんな事知らない…
「樹里ちゃんを初めてみた時。亡くなった妻が生き返ったかのように見えて、すごく驚いたよ」
はぁ? なにを言っているの?
「妻の風香にそっくりで、話し方も声も似ているから心臓が止まりそうだったんだ。…風香は、いつも自分を責めてばかりで。樹里ちゃんのように、悲しそうな目をしていた。そして…風香は、瞳の色が紫っぽかったんだ」
嘘…。
驚いた樹里はチラッと柊を見た。