彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
「もう一人の娘の楓は、僕と同じブラウンの瞳だけどね。いなくなったもう一人の娘は、風香と同じ紫っぽい瞳の色をしていたよ」
私と同じ瞳の色の人がいるんだ。
しかも憎い人の奥さんが?
「これ、見てくれるかな? 」
差し出された一枚の写真。
その写真を樹里は横目で見た。
写真は産まれたばかりの赤ちゃんを抱いている風香の写真。
生まれたての赤ちゃんで、偶然にも目を開けている時のようだ。
その瞳は…紫色の瞳をしている…。
「この子は、いなくなった方の子供なんだ。風香と同じ瞳の色だねって、とても喜んでいて…。この写真の風香を見ていると、樹里ちゃんにそっくりだと思ったんだ」
私に似ている?
私、こんなに美人じゃないから…
「年齢も今の樹里ちゃんと同じくらいの時だから。…だから…樹里ちゃんを見ると、風香を思い出して嬉しくて。そして、いなくなった子が帰って来てくれたのではないかと思えてきて胸がいっぱいになっていたよ…」
ズルっと鼻をすする音がした。
もしかして泣いているの?
チラッと樹里は宇宙を見た。
すると目頭を押さえている宇宙の姿が目に入った。
なんで泣いているの?
そう思った樹里だが、泣いている宇宙を見ているとなんとなく胸がチクリと痛んだのを感じた。
「ごめんね。…樹里ちゃんが一番知りたい事を話すから…」
一番知りたい事?
「樹里ちゃんのお母さんを助けたのは、僕だよ。20年前に、北の地に旅行に行った時だったけど。倒れている所を通りかかったんだ。病院に運んだんだけど、何も覚えていなくて身元が証明されるものも何もなくて。そのまま警察に保護されるところだったんだけど、僕がほっとけなくて引き取る事にしたんだ。娘も柊も一緒にいたいって、言ってくれて。僕も、妻を亡くしてぽっかり心に穴が開いていたから…元気になるまでって、約束だったんだけど。…記憶が戻らないまま、手放すことが出来なくて20年の月日が過ぎてしまったんだ」
助けた? 誘拐したんじゃないの?
少し困惑した目をして、樹里は柊を見つめた。