彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
ちょっと黙っていた優だが、観念したかのようにため息をついて宇宙を見た。
「すごいですね…としか言えないですが。当たっています」
「そうでしたか」
「大紀は私が初めに結婚した妻の子供です」
「初めに? 」
少し遠い目をして優は辛そうに目を細めた。
「私が初めに結婚した妻は、体が弱く子供も産めないかもしれないと言っていました。それでもいいと言って、結婚したのですが。結婚して1年過ぎる頃に、子供を授かったのです。でもそれと同時に、妻の病気が発覚しました」
ギュッと拳を握りしめて優は、とても悔しそうな表情を浮かべていた。
「妻は妊娠と同時に、乳がんが見つかったのです。子供を産む事を選べば、確実に助からないと言われました。それでも妻は出産を選んだのです。私は止めましたが、私との間に授かった大切な命を産んであげたいと言って命と引き換えに大紀を産んでくれました。…出産後は闘病生活がずっと続き、その中で大紀の事を精一杯愛してくれていました。でも…大紀が産まれて3ヶ月過ぎた頃に、闘病の末…妻は亡くなりました…。残された大紀と2人で、妻の分まで生きて行こうと決めました。…そんな時でした、偶然にも出会ってしまったのがジュリーヌでした」
優が妻を亡くして3ヶ月の月日が流れた頃。
忙しい日々の中、優は大紀を保育園に預けながら仕事に励んでいた。
育児中という事でどんなことがあろうと定時で仕事を切り上げ、土日は大紀との時間を優先していた。
それで幸せだと優は思っていた。
育児にも慣れてきて大紀と2人生活も楽しくなってきた、そんな時だった。
営業にでた優が駅前を歩いていると。
黒いワンピースを着たとても綺麗な女性が歩いてくるのが目に入った。
金色の髪が腰まで届くくらい長く、スラっとした長身で、まるでどこかの物語から抜け出してきたお姫様のような美しい女性に、優は見惚れてしまった。
駅の周りを何だか珍しそうに見渡して歩いている女性。
ふと見ると、足元が素足で靴を履いていなかった。
季節は冬だと言うのに素足で歩いている女性に、優は驚いた。
だがそれと同時に、胸がキュンとなってしまった。
まだ妻を亡くして1年も経過しないのに、こんな想いは不謹慎だと想いつつも女性から目が離せなかった優。
そのまま通り過ぎようとした時。
「痛っ…」
小さな声で痛みを訴えた女性の声が聞こえた。