彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
本当は…
「跡を着けて来ていたのは知っている。何か用なのか? 」
いつもより低めのトーンで優が言った。
物陰に隠れていた男はちょっとだけ顔を出した。
「…私に用があるなら、着けてくるような真似をしないで堂々と会いに来たらいいではないか」
そう言って振り向いた優は、男が隠れている方向を見た。
「何を隠れる必要があるのだ? …私は、お前の父親だぞ…大紀! 」
大紀と呼ばれるとビクッと反応した男は、観念したかのように物陰から出てきた。
明るい街灯の下に歩いてくると、その男は大紀だった。
柊を刺した日より、ちょっとだけやせ細ったような顔をしている大紀は、疲労感が表情に出ていた。
「久しぶりだな、大紀」
大紀はムスっとして優を見たまま何も言わない…。
「どうかしたのか? わざわざ私を着けてくるとは」
「…金、渡してほしいんだけど。俺の貯金、あるんだろう? 」
「金か? お前の貯金などとっくにないぞ。お前が着服した金額は、貯金などでは不足しているくらいだったからな」
ムスっとして大紀は視線を落とした。
「私の事が気に入らない事は、十分に承知している。だがな、私がお前の実の父親である事は一生変わらない。お前の不始末は、親である私の責任として処理しなくてはならない。しかし、お前ももう大人だ。自分で責任をとるべきことは、きちんと責任をとってもらう必要がある」
「説教じみたこと言いやがって。…好き勝手やって来たのは、テメーだろ! 」
ムッとした目をして睨みつけて来た大紀。
そんな大紀を優は冷静な表情のまま見ていた。
「勝手に再婚して、勝手によその子供を連れて来て自分の子供にして…。他人ばっかの家族ごっこさせて…全部、テメーの自己満足だろう! 」
「そう思っていたのか? 」
「ああ、ずっと思っていたよ! 」
「そうか。それはすまなかったな。…だが、私が再婚したのは…お前が赤ちゃんの時、ジュリーヌことをすごく気に入ってくれたからだぞ」
「はぁ? そんなわけねぇだろ! 」
「本当だ。確かに、私がジュリーヌに心を惹かれた事もある。だが、お前はジュリーヌを見て自分から笑ってくれた。不慣れな子育てをしているジュリーヌにも、笑ってくれていた。だから安心して、私はジュリーヌとの再婚を選ぶことができた」
嘘だ…そんな事…。
そう思った大紀だが。
ジュリーヌはいつも懸命だったのは確かだった。
大紀が熱を出した時はずっと眠らないで看病してくれて、ぐずっていてもずっと抱きしめてくれていていた。