彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
小学生になり子供ができたと言っても、産まれるまではずっと大紀に寄り添ってくれていた。
子供が産まれたら、どうしてもその子に手がかかるからと言って大紀との時間を大切にしたいと言っていた。
でも…
大紀は指輪の日付を見て何故かショックを受けた。
あんなに可愛がってくれている人が、どうして本当の母親じゃないのかと…
産まれてくる子供に嫉妬が湧いて来た…。
「大紀。お前は、ジュリーヌが今でも嫌いなのか? 」
そう尋ねられると、大紀は答えに迷った。
嫌いだ! そう答えたかったが、その言葉が出てこなかった。
「お前が本当に今でもジュリーヌが嫌いなら。…私は、ジュリーヌと別れてもいいと思っている」
「はぁ? 何言ってんだよ」
「もういなくなって20年経過する。いない人を探す事に、私も疲れた。…お前は私の目の前にいる。だから、お前が望むならもう別れてもいいと思っている」
「俺は…別に…」
ごにょごにょと何かを言っている大紀。
そんな大紀は、まるで小さな子供の様に見える。
「立ち話もなんだ、せっかく来たのだから家に入れ」
え? いいの?
戸惑うような表情の大紀に、手招きをして家の中へ入るように促した優。
複雑そうな顔をしている大紀だが、そのまま素直に家の中へ入って行った。
豪邸のような広い上野坂家。
お手伝いが数名住み込みで働いていて、夕食の用意をしていた。
「お帰りなさいませ旦那様」
60代後半くらいのお手伝いの女性が、丁寧に挨拶をしてくれた。
「すまないが、今夜は大紀が戻って来た。部屋を準備してほしい」
「はい、かしこまりました」
大紀はちょっと照れ臭そうに家の中に入ってきた。
「大紀、先に風呂に入ってきなさい」
「はぁ? いいよ、そんなの」
「何を言っている。ちょっと薄汚れているぞ」
ツンと大紀の額をつついて、優が言った。
うるせえな! と言いたかった大紀だが、言葉に出せなかった。