彼と彼女の取り違えられた人生と結婚
大切な事は

 昼下がり。
 いつも通り仕事をしている優に電話がかかって来た。

 携帯電話を取り出して電話に出た優。
「もしもし? 」
(父さん、俺だけど)
「大紀か。どうかしたのか? 」
(うん。自首したんだけどさっ、被害届は出されていないって言われたんだ)
「え? そうなのか? 」
(うん。被害者側が、事件にしないで下さいと言って来たと言われた。うちわの喧嘩が過剰になっただけで、殺意も全くなくて加害者を訴える気は全くありませんって…。警察では傷害事件になるけど、被害者側からの被害取り下げの意志もある事から。今回は書類送検のみで対応するって言われたよ)

 優は目頭が熱くなった。
 柊の優しさが嬉しくて、胸がいっぱいになったのだ。

 やはり柊はジュリーヌに似ているような気がする。
 ジュリーヌもいつも、大紀が酷い事を言っても責める事はしなかった。
 あの優しい口調も似ている…。

 柊は…私の子供なのかもしれない…そして、大紀の弟なのかもしれない…。

 優の中でそんな気持ちが込みあがって来た。

(父さん。俺、宗田ホールディングで働かないか? って言われている)
「本当か?」
(どうしようか迷ったけど、働いて見ようと思うよ。将来、俺は父さんの後を継ぎたいと思っているから。ずっと甘えてばかりで、いい加減だったから。知らない場所で修行してくるよ。俺にできる変わらなけど、やってみようと思う)
「良い話だな、やってみるといいだろう。お前が戻って来るまで、まだまだ私も現役で頑張れるから心配するな」
(分かったよ。有難う、父さん)

 
 優はホッとした。
 正直、大紀が傷害罪で逮捕されると仕事にも大きく響くのは分かっていた。
 それは絶える覚悟はあったが、多くの社員の事を思うと辛かった。

 柊が被害を取り下げたのは、樹里の為もあったかもしれないがとりあえず円満に解決できて良かった事だ。

 
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