冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
「茶葉の専門店に行けば、急須や湯呑も手に入りそうだな。気に入ったものがなければ、陶器を専門に扱う店に寄ればいい」
茶葉だの陶器だの言いだした岩倉さんに、慌てて口を開く。
手元のスクロールを止めたいけれど、手に残ったままの泡がそれを止めた。
「え、あの、大丈夫です。どうしても欲しいわけじゃないので本当に全然……私、コーヒーも好きですし。それに岩倉さん、荷物が増えるの嫌いじゃないですか」
「問題ない」
「でも……」
「ふたりで暮らしていく部屋だろう。おまえが安心できるものは、俺にとっても不要じゃない。それに……最近気付いたが、シャンプーだとかカップだとか、ハンドリクームだとか、おまえの気配がするものが部屋にあるのは悪い気分じゃない」
私が好きだと声にしたものをすぐに家に置こうとしてくれる姿に、止めようとしていた気持ちが消え、代わりに胸を覆った温かさに笑みが溢れる。
たぶんだけれど、私が〝好き〟だと声に出せるようになったことを、岩倉さんも喜んでくれているのかもしれない。
少し前の私には〝好き〟も〝嫌い〟も感じられなかったから。
岩倉さんが私を大事にしてくれるのが態度や声からわかるから、私も、私自身を大事にしなくちゃと思うようになった。
岩倉さんは、『おまえが安心できるものは、俺にとっても不要じゃない』と言ったけれど、私がなにより安心できるのは、岩倉さん自身だ。
傷ついて起き上がることもできなくなっていた心は、岩倉さんのおかげですっかりまんまるに満たされていた。