冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す


「起きたのか」

バッと顔を上げて確認できたのは、見覚えのある人で……記憶を探り、ようやく右隣の住人の男性だと思い出す。
そういえば、帰りのエレベーターで一緒になって少し話した気がする。

なんて名前だったっけ……。
私が悩み出したタイミングで「岩倉だ」と教えてくれたので、エスパーかと思った。

「気分は?」

白いロンTに黒のスウェットというリラックスしたいで立ちの岩倉さんが、ベッドに近づき見下ろしてくるので「少し、ぼーっとしてます」と答える。

それから「あの、私、どうしてここに?」と聞いた。

「通路で意識を失ったんだ。俺の方に倒れ込んできたおかげで、床にどこかを打ち付ける前に支えられたからよかった。脈も呼吸も正常だし、知り合いの医師に電話で確認したが、事情を説明したら恐らく過労だとか栄養失調あたりだろうってことで救急搬送は見送った。必要ならすぐに電話してやるが、どうする?」

淡々と説明され、慌てて首を振る。

「あ、いえ! そんな、救急車なんて呼ばれたら目立っちゃいますし、万が一入院になって出社できなくなったら上司に怒鳴られます。体調も大丈夫なので……っていうか、すみません、ベッドを借りただけでなく、寝ている間に色々確認してくださったみたいで……」

逆の立場だったら、相当パニックになったと思うし、間違っても岩倉さんみたいに冷静には動けなかった。

岩倉さんに介抱された私はまだ運がついているのかもしれないな、と思い、ベッドの上で正座して頭を下げる。

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