食リポで救える命があるそうです

・【即決二択訓練】


 今日はリュートさんから、即決で二択を選ぶ、判断力を養う訓練をすると言われた。
 確かにこの世界は私がいた世界よりも危険が隣り合わせの世界だ。
 グリズリーのようなモンスターに襲われた時、使う技を間違えてしまったら即死亡してしまう。
「よしっ! ユイ! 準備はいいかっ! 俺の言ったことにすぐ答えるんだぞ!」
「はい! 分かりました!」
 私が元気に答えると、リュートさんはムッとしてから、
「ダメだ! もっと真剣に!」
 と叫んだ。
 いや
「返事の音量が気に食わなかったってなんですか、それくらいいいじゃないですか」
「いや! 答えるほうは冷静に答えるべきだ! 分かったか!」
「はい」
 と今度は落ち着いた声で返事すると、小首を傾げたリュートさんは、
「いや、やっぱどっちでもいいや、大きい声も大きい声の良さがあるな」
「何なんですか一体、じゃあ私は勢いよく叫びたいんで、大きな声を上げますよ」
「好きにしてくれ」
「というかリュートさんに判断力が無いじゃないですか、しっかりして下さい」
 私はやれやれといった感じにそう言うと、リュートさんは不満そうな顔をした。
 そんな口を尖らせられても、と思ったけども、まあここにツッコんでいくと話が進まなそうなので、黙っていると、リュートさんが拳を強く握り、
「第一問! 炎魔法は熱いか冷たいか!」
 と言ってきたので、即座に、
「熱い!」
 と答えたものの、私は矢継ぎ早に、
「いや問題のレベルが低すぎますよ!」
「じゃあ炎魔法は冷たいか熱いか!」
「熱い! っいやだから! 選択肢を逆にして引っかけてみたじゃないんですよ! 全然引っかかりませんから!」
 するとリュートさんは少し俯いて、
「これ設問側にセンスがいるなぁ……」
 と言いながら後ろ頭を掻いた。
 私は深呼吸してから、
「ちょっとリュートさん、この訓練、多分こういうことじゃないですよ、言葉でやるヤツじゃないですよ」
「でもほら、あんまり訓練とは言え、危険なことをしたくないじゃないか。ユイに向かってゴリゴリの炎魔法飛ばしたくないじゃん、右か左に躱せ、とか可哀相じゃん」
「いやまあ確かにゴリゴリの炎魔法が飛んで来たらヤバイですけども」
「はい! 第二問! 風魔法はそよぐっ? そよがないっ?」
「弱い風魔法はそよぐし、強い風魔法はそよぐというレベルじゃない!」
 私はすぐさま答えたものの、何だこの問題。
 というか、
「リュートさん、会話の途中で問題出してなんとか唐突感を出さないで下さい。はい! 第二問! とか言われたら構えちゃいますし。せめてそれらを言わないで下さいよ」
「ダメ出しがすごい飛んでくるじゃん……」
 そう言いながら引いてしまったリュートさん。
 いや引かれても。
 そもそもこの訓練はリュートさんに向いていないな、と思ったその時だった。
「ユイは俺のことが好き! 嫌い!」
「えっ! あっ! 好きぃ!」
 ……てっ!
「何だその質問! リュートさん何言ってるんですかぁっ!」
 一気に顔が真っ赤になってしまった私。
 それに対して何故か満足げにリュートさんが、
「今までの判断に比べて、ちょっと遅かったぞ! 俺の勝ちだ!」
「いやまず何か勝ち負けのアレじゃなかったですし、何ですかその質問!」
「……俺、今、なんて言ったっけ? 何か勝ちたくて必死になって何を言ったかよく覚えていない……」
「勝ちたくてって何ですか! そもそも別に出題側に負けはないですし!」
「いやでもユイにめちゃくちゃダメ出し食らっていたし……」
 そう言いながら、肩を落として、しょんぼりしたリュートさん。
 じゃあ何だ、何を言ったか本当に分かっていないのか?
 あんな恥ずかしいこと言っておいて……どうしよう、言ったほうがいいのかな、改めて口にしたほうがいいのかなと思っていると、リュートさんが、
「俺、別に変なことは言ってないよな? 弓が好きかどうかみたいなこと言ったよな?」
 弓じゃなくてゴリゴリにユイだったけども。
 いいや、ここはもう言ってやれ。
「違います。リュートさんは今”ユイは俺のことが好き! 嫌い!”と言いました」
「えっ? 俺はまあユイのこと、話しやすくて好きだけども」
「いや! リュートさんが答えるんじゃなくて!」
「で、それでユイは好きと答えたというわけか、そうだよな、弟子が師匠のこと嫌いなわけないもんなぁ」
 そう感慨深そうに頷いたリュートさん。
 でも何だこの雰囲気、全然恋愛的な好きじゃない……いやまあリュートさんってそういう人だけども。
 ちょっと残念がってしまう自分が悔しい。
 というか少しくらい意識したっていいじゃないか、とか思ったけども、そういうことを気にしないところもリュートさんのいいところなのかな、とその日は思った。
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