花筏に沈む恋とぬいぐるみ
雅は気づいていたのだろう。
凛と花がコソコソと何かをしている事を。そして、それが四十九日の奇だという事が。
申し訳なさそうにそう言う雅は、少しだけ悲しそうだった。
彼にそんな表情をさせるためにやっていたわけではなかった。
けれど、雅に心配をかけてしまっていたのだ。
やはり、全て雅に話をするべきだったのだろうか。花は、そう思った。
「俺達は明後日にお前を送る」
「……え」
「勘違いするなよ。俺の体は取り返すし、おまえを成仏させる。それは絶対だ。決まり通りに、四十九日のうちに必ずにお前を上の世界まで連れて行ってやる」
「………凛」
凛は変わらずにまっすぐ前を向いている。
疲れや不安もあるはずだ。それなのに、出来るとと信じている。
信じないと出来ない。それをわかっているのだ。
それを曲げずに貫く事は難しい。
一度、辛い事を言われただけで花は決心が揺らいでしまった。逃げてしまった。
けれど、凛は逃げずに前だけを見ている。
こんな風になりたい。花は強く思った。
それと同時に、凛の本当の気持ちも知りたいとも。
「ありがとう。そうだね、凛という通り諦めない事にするよ。ダメだったらその時に考えればいい。俺だって、凛の体を燃やすつもりはないからね」
「ダメになんかならない」
「あぁ。その通りだ………」
頑なに曲げない凛に、雅はクスクスと笑いながら返事をした。
3人は最後の日に目を向けていく。
終わりたくないと願っていても、その日は来てしまうのを大人である私たちはもう知っているのだから。
急ぎながらも、ゆっくりと、3人の時間を大切に過ごしたい。
それぞれは、お互いにそんな風に思っていたはずだった。
その日の夜。
岡崎から電話があった。
それは「明日から仕事に復帰していいと通達が来た」そんな連絡であった。