花筏に沈む恋とぬいぐるみ




 普段ならば「何やってるんだろ?」「変わった人だな」と、それで終わっていたはずだった。
 それなのに、その時の花は違っていた。そのクマのぬいぐるみと自分のクマが重なってみえたのだ。


 「……ものをぞんんざいに扱うなんて最ッ低ッッ!」


 憎悪の言葉を漏らした時には、もう花の体は勝手に走り出していた。
 それほど多くな川ではないので、低い柵しかないため、荷物を橋に置いた花はそれをふわりと飛び越えた。


 「え、君ッ………!!」


 体が重力に従って落ちていく。
 驚き戸惑う声が後ろから聞こえて来て、花は顔をしかめる。あながが落としたからこうなったんじゃない、と叫んでやりたくなる。

 が、そんな言葉を発する前に、大きな水しぶきをあげて花の体は川へと落ちていった。川の底は思ったよりも深かったようで、体を強打することはなかった。花は顔についた水や花びらを拭いながら周りをキョロキョロと見た。すると、少し先に目的であるクマのぬいぐるみが半分沈んだ状態で浮かんでいた。


 「あった!今、助けるからね………」


 その言葉をかけると、クマのぬいぐるみがピクッと動いたように見えた。が、それは花が音を立てながらジャバジャバとそちらに向けて泳いでいるからだろうとわかり、一安心をした。まさか、これも、というわけではないようだ。
 洋服が水分を含み、体が重くなり思ったように動けなくなりクマを救出するのが困難だった。川も緩やかだが流れているので、ドンドンぬいぐるみが流れていってしまうのだ。必死に体を動かし、もう少しのところまでくるのには大分時間がかかったような気がしていた。
 ピンッと手を伸ばして、クマのぬいぐるみを掴んでやっとの事で胸に抱いた瞬間、花はホッとして体全体から息を吐きだした。



 「おーい!君ッ!大丈夫かい?」



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