花筏に沈む恋とぬいぐるみ



 そんな事を考えていると、フッと目の前にヒラヒラと白いものが舞い落ちた。
 顔を上げるとそこには川沿いに薄桃色の桜並木が続いていた。そんな木々は固まって1つのピンク色の雲のようだなっと思ってしまう。そこから雨のように花びらがこぼれる。そして、地面と川に花の絨毯がひかれていく。
 きっとこの景色を見たら、皆が綺麗だな、と感銘を受けるのだろう。
 けど、自分は………。そう思った時だった。


 川に掛かる少し古びた赤レンガの橋の調度真ん中に一人の男性の姿が花吹雪の合間に見える。桜の花の時期もそろそろ終わりを告げるように、風が吹くと次々に花びらの雨が降る。男性はそんな幻想的な雰囲気に気にとれる事もなく、橋の下の川を見つめている。
 穏やかな水の流れ。ピンク色の花びらがいくつも水面にありその上を歩けそうなぐらいだ。

 そして、その男性の手元に何かを持っているのがわかり、花はそれがなんとなく気になり凝視してしまう。


 「……もしかして、クマのぬいぐるみ………」


 男が手にしていた、茶色の毛のぬいぐるみだった。半円形の耳に、まあるい顔、少しお腹がぷっくりとしたテディベアだった。遠目なので正確ではないがあのクマだとわかった。
 成人男性がクマのぬいぐるみを持っているのには不思議に思ったが、あの人ならば、探している場所について知っているはずだ。そう思い、橋へと駆け出した。

 が、その途端、男の手がクマの体を離れ、みるみる内に川へと向かって落ちていく。そして、無情にもポチャンッという小さな水音をたててクマは川へと落ちた。水面が揺れ、それに合わせてクマのぬいぐるみを避けるように花びらが離れていく。



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