花筏に沈む恋とぬいぐるみ




 「岡崎さんから話は伺っています。お父様の件、残念でしたね」
 「ご心配おかけしてすみません」
 「ううん、いいのよ。あなたにとって大切な家族が亡くなったのだから、今は悲しむ気持ちがあって当然だし、お見送りする必要もあるわ。けれど、1つだけ伝えておきます」
 「はい」
 「スタッフの中でも、あなたのお父様がなさった事を悪だとし、花さんを雇う事を反対した人もいます。だから、あなたに対して辛い事を言われたりされたりするかもしれない。けれど、その時は私や岡崎さんにすぐに教えてくださいね」
 「わ、私は大丈夫です。それも仕方がないことだから」
 「罪を憎くんで人を憎むまず」
 「え……」
 

 当然、そんな事を言葉にした冷泉に花は目を見開く。
 すると、真面目な表情から一転して、冷泉は「ふふふ」と笑った。


 「私の大好きなおばあちゃんがよく話していた事なの。私もそう思ってる。それに、あなたが悪い事をしたわけではないんだから、あなたの傷つける言葉や態度は間違っていると私も岡崎さんも、ほとんどのスタッフも思っているわ。だから、堂々と仕事をしてね」


 頑張るのよ、と手で拳をつくった左手にはダイヤモンドがはめ込まれた結婚指輪があった。
 こんなにも素敵な人なのだ、お相手の男性はとても幸せだろうな、と花は思った。


 それに、自分を理解し応援してくれる人がいる自分も幸せだなっと思い、彼女の真似をして拳をつくり「頑張ります」と2人で微笑み合ったのだった。




 
 
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