販売員だって恋します
「では靖幸には、再度企画をやり直しさせるとして、我々はここで失礼いたします。
ここでのことは、この場のみ……ということで。」

そう言って、席を立つ雅己に、由佳と絋は揃って畳に手を付いて頭を下げた。
亭主である楠田が立って2人を見送り、続いて絋が席を立つ。

「こちらがお店の名刺です。由佳ちゃんも今度、大藤さんとおいで」
「うん。ありがとう」

そして、由佳も玄関に立つ。
改めて、父と向き合った。

「お父さん、お疲れ様でした」
「うん。疲れたな。けど、なんだかスッキリした気持ちだ」

父は今までに見た事がない顔をしていた。
きっと本当に、いろいろ考えたのだろう。

店を仕舞うことまで考えているとは、由佳は思わなかった。

けれど無くなるかもしれない。
それが話として出た時、真っ先に思ったのは、ここがなくなるのは嫌だ!という感覚で。

他人であるはずの神崎兄弟が熱心に言ってくれたことは、由佳には救いでもあったのだ。
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