販売員だって恋します
「それにあなたがここまで来たのは、ご自分のためではないですよね。その大藤さんのお気持ちに、感銘を受けたからです」

まっすぐ大藤を見るその絋の目は、何かを見抜いているような真っ直ぐさで、大藤は緩く微笑む。

「不思議な魅力ある方ですね。あなたは……」
「そうですか?育ちのせいかもしれません」
「『くすだ』の?」

「はい。僕は家を出るまでジーパンを履いたこともありませんでした。えっと、デニムパンツ、とか言うんでしたっけ?」

学校は私立で送迎付き。
自宅に帰ったら和装に着替えて、まずは宿題。
その後はお店の準備を手伝い、お料理の確認に付き添い、配膳長から教育を受ける。

「今で言うブラック企業ですよねぇ。正座を崩したり、だらしない歩き方をしたら、直ぐに定規でぶたれましたから。パワハラ?」

絋はそんな事を言って、くすくす笑っている。
そんな事を言ってみてはいるものの、本当には思ってはいない様子だ。

「確かに、今なら問題になりそうです。」
内容はなかなかにハードな内容だと思うのだが、当の本人である絋はにこにことしている。

「またそれが嫌とは思ったことのない、変な子供だったんです。僕は。」
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