販売員だって恋します
今も……とそっと呟いて、顔を俯ける絋は、そんな話をしていても、なせだか不思議と色気のある人だ。

「感謝しています」

「それならば、なおさら……」
実家と溝のある絋に、自分の雇用主である、成田家のことが微妙に重なり、それもあってこんな風に思い入れが強くなっているのかもしれない。

上司であり、恩人である成田勇と、息子の翔馬の溝は深かった。
けれど、婚約者の元宮奏の尽力もあり、今は大分わだかまりは溶けていると思う。

側で見ている成田勇は、最近とても幸せそうだ。
成田勇はもともと精力的に働いている人ではあったものの、やはり息子がこまめに家に帰ってきたり、奥さんがお嫁さんになる人と仲良くしているのを見るのは幸せなことらしい。

家族が幸せであることを望まない人はいない。
全てを持っているような、成田家でさえそうなのだ。

由佳を幸せにしたいし、彼女の中の悩みも困りごとも、助けられるものは助けたい。

それが2人でいる意味なんだと、教えてくれたのも由佳である気がする。
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