販売員だって恋します
要を見ているといつも思い出すのだ、愛しい人の子供の頃の姿。
やはり血は争えないなあ、と思う。

「要、やはりここか」
今度は和装の大藤が調理場をひょい、と覗く。

調理場の雰囲気がキリッと引き締まったのを沢木は感じた。
良いことだな、と思う。

「すみません。要、ご迷惑はおかけしていないか?」

「していません。あ……でも誠さんに、飾り切りを教えてもらっていました」
「上手ですよ」

要が作った飾り切りを沢木は、皿に乗せて、大藤に見せた。

「本当だな。要、あと少し作れるか?今日の大事なお客様にお出ししよう。ん?沢木さん、この花は?」

喜んで魚を作り始めた要の横から、雰囲気のちがう花を大藤は指差した。
「それは、杏樹さんにお作りしたようですよ」

「渡せてはいないんですね。では、それは杏樹さんのお皿に乗せてあげてください」

「はい」
そう、返事をして、沢木は調理に戻る。

沢木も今は、普段『くすだ別邸』でしか腕を振るわないのだが、今日は特別なのだ。
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