販売員だって恋します
もちろん、今もそれなりのコースは当然用意されていて、昔ながらのお客様にも相変わらず支持されているのだが。

それでも少しずつ形を変えて、今のスタイルに落ち着きつつある。

伝統と言うならば、『別邸』と銘打ってはいるけれど、『くすだ別邸』の方がもとの『くすだ』により近い。

宿泊も含むけれど、1日2組しか取らないというその宿は贅を極めている。
半年先まで予約はいっぱいで、予約の取れない宿として有名だ。

その両方を束ねているのが、社長である大藤久信なのだ。

妻である、由佳が『くすだ』を。
義兄である、絋が『くすだ別邸』をそれぞれ、女将、亭主として、支えている。

数年前まではその地位は、由佳や絋の父が担っていたけれど、
『名実共に、経営しているのは久信くんなのだから、もういい加減に観念しなさい。』
そう言われて今まで副社長として腕を振るっていた大藤は苦笑して、正式に引き受けることにしたのだ。

突然、社長になったのでは、受け入れられなかった可能性もあったが、みんな大藤が何年も社長の側で献身的に勤めて来たことや、今の『くすだ』のベースを作ったのが、大藤であると知っていれば、嫌な顔をするものもいなかった。
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