販売員だって恋します
「久信さんの冷静さも受け継いでいると思いますけど」
「由佳の可愛らしさもね」
さらりとした栗色の要の髪を見て、大藤はそう言う。

「素敵なお着物、ありがとうございます」
今日由佳が着ているこの華やかな着物は、元デパート勤務だった夫が、そのコネにものを言わせて作らせたものだから。

「綺麗ですよ」
美しい妻の姿を、満足そうに眺める大藤だ。

そんな由佳に仲居頭の男性が声を掛ける。
「女将、お客様着席されました」

「分かりました。ご挨拶に伺います」
由佳は、和装の大藤に笑いかけた。

「行ってまいります」
「行ってらっしゃい」

大藤はその由佳の頬を指でするりと撫でた。
そして、そっと耳元に囁く。

「愛してますよ」
出会った時、大藤は誰にも本気にはならない人なのだと思った。

けれど今はその全てで、由佳も由佳の家族も、子供も守っている。

そうして、こんな風に不意打ちのように気持ちを伝えてきたりするのだ。
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