氷雪の王は温もりを知る
「このまま雪が降れば、やがて国は雪に埋まってしまう。おれの力でどうにか出来ないのか……」
「それは無理でしょう。それよりも、民たちが無事にこの季節を越えられるように、除雪の手配や、食料の備蓄が尽きかけている者たちへの支援策を講じなければ……」

 なかなか話し声が途切れず、扉の前に立ち尽くしていると、不意に話し声が途切れた。
 そうして、勢いよく扉が開いたのだった。

「そこに居るのは誰だ!?」

 扉が開くと同時に叫びながら出て来たのは、白藍色の長い髪の男ーーポランであった。
 抜き身の細い剣を喉元に向けられたのだった。

「え……!?」

 剣を向けられ、戸惑っている私を見たポランは、「女……!?」と灰色の目を見開いたのだった。

「こんなところで何をしている!?」
「何って、気づいたらここにいて……」
「嘘をつくな。どの国の刺客だ?」

 喉元に向けられて、息が出来なくなった。

「ち、違います……! 私はただ自分の部屋に入っただけで……」
「嘘をつくな!」

 ポランに怒鳴られて、石造りの壁にしたたかに背中をぶつける。

「嘘って……本当の事で……」
「嘘はいい。本当の事を話せ。一体、どの国の依頼だ?」

 恐怖で目から涙が溢れてくる。
 どうしてこうなったのだろう。
 私はただアパートの自分の部屋に帰っただけなのに。

「本当なんです……。自分の部屋に入ったはずがこの場所にいて、人を探していたら、この部屋から明かりが漏れていたから近づいただけなんです……」

 泣きながら話すと、ポランは「もういい」と溜め息をついたのだった。

「嘘をつき続けるなら、本当の話がしたくなるようにしてやる」
「う、嘘じゃない……」

 です、と最後まで言葉は言えなかった。
 ポランに腹部を殴られたのだと気づいたのは、後から襲ってくる痛みから分かった。

 自分がいた部屋の中に視線を向けたポランが、「身ぐるみを剥がして、どこの国で雇われたのか調べろ。それから、口を割るまで地下の部屋に閉じ込めておけ」と話しているのが、薄れていく意識の中で聞こえていた。

 そのまま、私の意識は途切れたのだった。
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