憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
いや、俺が悪い、全面的に。だってアルマにはきちんと言っていないのだから、そりゃあ伝わってないに決まっている。だからと言って好きな女から、ちゃっちゃとやることだけやって、他の女の所に行けと言われて、落ち込まないわけがない。
向けようのない怒りと、寂しさと焦燥感を、なんとか飲み込もうと俺は必死だった。
昔の俺ならここで確実に拗ねて、彼女に八つ当たりしただろう。だけどもう、そんな子供じみたことをやっていられる場合ではないのだ。ユーリがアルマの眼中からなくなった今、全力で彼女の心を俺に向けさせなけばならないのだから。
先日の夜の出来事で彼女を怯えさせてしまったばかりで、そろそろ互いに落ち着いて顔を合わせられるだろうと思った矢先にアルマからお茶の誘いがあって、ようやくまた距離を少し縮めようと思っているのだ。ここで下手に彼女を怒らせたり落ち込ませたりしたら、また…また彼女の顔を見られない毎日がやってくる。
それだけは嫌だ。せっかく毎晩一緒に過ごす時間ができて、彼女の少し気を許した姿を見られるようになって、寝室まで入ることに抵抗を持たれなくなったのだ。
後退は絶対にあってはならない。
ゆっくりと心を落ち着けて、アルマを見ると。やはり彼女は自分に何か叱られるのではないかと身構えているような表情でこちらを見ていた。
今、ずっとアルマが好きでアルマ以外の女を抱くつもりがないなどと言えば、きっと彼女はとても驚くだろう。ただでさえ今日は彼女にとっては刺激が強くて衝撃的な事が起こっていて、情緒不安定になっているのだ。随分と混乱されて下手をすれば逃げられる。
「俺のことは気にしなくていい。別に結婚したい人もいないし、なんなら自分の正式な子供を欲しいとも思っていない。」
無難な言葉を何とか絞り出す。それだけで随分な神経を使った。
「え?そうなの!?それはまずいんじゃ!!」
それなのに当のアルマは、さらに傷を抉ってくる。
確かに、俺はユーリの同腹の兄弟だから、ユーリとその子孫の御代を固める意味でも、跡取りは必要なわけだが、それだって正直なところ、ユーリの子供が多ければ…つまり俺とアルマが多く子を為せばいい話でもあるのだ。
最初から俺はそのつもりでいるのだが、アルマにはそんな考えはみじんもないようで。
それは俺がまだ彼女の中で全くその対象になっていないということだと思い知らされる。
「やたらに皇族を増やすのも財政を圧迫するからな。無理に増やそうとは思わない。」
素っ気なくそう言えば、アルマは「そうかも知れないけど…でも」などと口の中でもごもご言ってはいたものの深く追求はしてこなかった。
「とにかく、アルマは焦らなくていいから。外野の言う事は適当に流せ!俺やユーリの事を心配しなくていいから、我慢せずにもっとわがままでいろ!」
そう言ってアルマの頭をくしゃりとかき混ぜると、彼女がビクリと肩を揺らした。
あぁ、まだ彼女に受け入れられていないのだと、心が沈んだ。つい先ほども、盛大に突き飛ばされているのに何をしているのだろう。
「あぁ、すまん。」
慌てて手を引くと、アルマが「ごめん」と小さな声で謝った。
「いや、さっきも嫌がられたのに触れた俺が悪い」
そう言って、薄く笑うと慌てたようにアルマが顔を上げる。
「ちがうの!あ、あの場を見た直後だったから…意識しちゃって」
だから、嫌とかじゃないの…と最後は消え入りそうな声で言ってもう一度うつむいた。
さらりと彼女の柔らかな亜麻色の髪が落ちて、その間からのぞく小さくてかわいらしい耳が、わずかに赤くなっている。
意識した?俺を?アルマが?
信じられない思いで彼女を見下ろす。
だって、これは大躍進だ。噛みしめるようにそれを理解すると、顔が綻ぶのを止めることができなかった。多分俺は今、すごく気持ち悪い顔をしているだろう。
「嫌がられていないならよかった、夕食まで時間もある。少し休め」
彼女にそんな顔を見せるわけにはいかないので、彼女が俯いている頭を一度ポンと叩いて俺は席を立った。
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