憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
「ジェイドのアレは、わたしが変な事を提案したからなんです」
馬車に乗り込んで、それぞれリラックスすると、向かいに座るユーリ様に、ことの顛末を話す。
「へぇ、レイリーにジェイドがねぇ」
話を聞いたユーリ様は、なんだか釈然としない様子で頷く。
「あいつには珍しく夜会に出て行っているみたいだし、確かに何かしら企んでレイリーに接触しているとは思うけど…あの2人に何かとは考え辛いんだよなぁ~」
「そうなのですか?」
首を傾ければ、ユーリ様は顎に指を当てながら
「多分ねぇ~」と曖昧に頷いた。
「まぁおそらく大丈夫だよ!ジェイドを信じておこう!」
そう歯切れ悪く言いながら、なんとなく確信はどこかにあるらしい。
「でもさぁ」と続けた後、ユーリ様はニコリと晴れやかに笑った。
「アルマがジェイドの事にやきもち焼いてくれるだなんて!おねぇさんは嬉しいよ」
その何の危機感も感じていない笑顔に、なんだか自分の疑念が杞憂なのかもしれないと、思えてきて少しだけ、心が救われたような気がした。


それから数日。その晩は、慣例のモンシェールのケーキの日だった。
この所、夜になると留守がちだったジェイドは、珍しく早い時間からリビングにいて、ユーリ様と談笑していた。
私がリビングに入ったのとユーリ様がお休みになるために退室されるのはほぼ同時で。
「おやすみアルマ!」
「はい。お休みなさいませ」
互いに挨拶を交わして分かれた。
リビングルームには私とジェイドの2人きりで、戸口に立ったままいるわけにもいかず、ソファのいつもの席に座る。
テーブルの上には、私の分のケーキとジェイドの分のケーキが手付かずで置いてあって、あぁそういえばショコラをシェアする約束だったなぁと思い出す。そんな私の意識を読み取ったのか、ジェイドは組んでいた足を解いて、用意されていたナイフでケーキを切り分けてくれる。
「今日は、出かけてないのね?」
隣で作業する彼を横目に手持ち無沙汰で気まずいので、少し当て付けも込めて聞いてみる。
しかし
「今日はモンシェールの日だからな」と、さも当たり前のようにサラリと返されてしまう。
「そんな無理に優先しなくてもいいのよ。別にこちらで用意してもいいのだし」
「無理?」
私の拗ねたような言葉にジェイドが不思議そうに首を傾ける。
ちょうど綺麗に切り分けられたケーキが乗った皿を差し出されて、私は紅茶を入れて彼の前に差し出す。
「俺がどうしても外したくないだけだよ。だってアルマとゆっくり過ごせる時間じゃないか?」
さも当たり前のことの様にジェイドは笑って、ソファに体を沈めてケーキを食べ出した。
「っ…」
突然彼から出てきた、甘めな言葉に私は面食らって、息をのむ。顔が少し熱くなってきた気がして、慌てて視線を落とすと、ケーキをつつく。
「そんなこと言って…そうやってレイリー嬢も口説いているの?」
だから、ジェイドらしくないそんな臭いセリフが出てくるのだろうか。なんだかすごく面白くない。
「レイリーを?…俺が?」
ジェイドが意味が分からないと言う様にこちらを見る。私が彼女と一緒にいる所を見てないとでも思っているのだろうか。
「違うの?仲良さそうにしているのを見たのだけど?」
そう、軽く睨みつけて言えば、彼は少し眉を寄せて考えて、「あぁ…叔父上の誕生日パーティーの時か?」と理解したように呟いた。
「あれは、まぁな…ちょっと色々な手回しの関係上、代わりにエスコートを頼まれてな。」
「代わりに?」
首を傾ける。それでもまだ彼の言う事に釈然とできない私の表情は、とても不機嫌そうに見えるだろう。
「まぁ友人のな!関係上俺は断れなかっただけだ」
そんな私を意に返さず、むしろなんだかジェイドは少しずつ機嫌がよくなっているような気がする。
「どういうこと?」
なんだかそんなジェイドにも苛立った私は、問い詰める様に身を乗り出す。
そんな私を楽しそうに見ていた彼が、ゆっくり皿をテーブルに戻すと、ニヤリと…あのいつもの悪戯な顔で笑った。
「なに?アルマ、妬いてくれたの?」
わたしが、ジェイドに妬く!?
「っ!別にっ!ただ気になっただけよ!」
なんだかこちらだけが真剣で腹が立つ。怒りなのか、なんなのか先ほどよりも顔がどんどん熱くなる。
「まぁ、妬いてくれたのなら、それだけで嬉しいがな」
反対に彼は満足そうにそう言って最後のショコラを口に放り込んだ。
「ねぇ、何を考えているの?」
王子である彼がレイリーのエスコートを立場上しなければならないというのは一体どういった事情なのだろうか?
随分と余裕そうな彼を睨めつければ、彼は昔のような悪戯っ子のような顔で笑った。
「まぁ、楽しみにしてろって!」
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