涙の涸れる日
紗耶

祖母の願い

 お祖母ちゃんの家は都内だけれど西の外れの自然がたっぷりの場所にある。

 幼い頃は夏休みやお正月によく遊びに来ていた。

 懐かしい匂いに子供の頃にタイムスリップしたような気さえする。

「こんにちは。お祖母ちゃん」

「まぁ、紗耶。いらっしゃい。よく来たわね。暑かったでしょう?」

「ううん。凄く懐かしくて……」

「そう? それなら良かったわ。さあさあ上がって頂戴な。今、冷たい物を持って来るわね」

「うん。お邪魔します」

 祖母の家は平屋の日本家屋。庭も広くて緑が多い。

 祖父は五年前に亡くなった。
 今は祖母が一人で暮らしている。
 母は一人娘で、祖母にとって孫は兄と私だけ。

「これ、お母さんから預かって来たの」

「どれどれ、あら、なんて素敵な御茶碗なんでしょう。ありがとう」

「気に入ってくれた?」

「もちろんよ。涼子の趣味は私に良く似てるからね」
そう言ってお祖母ちゃんは笑った。




「お祖母ちゃん……。ごめんね。私、離婚したの」

「涼子から聞いてるわよ。辛い思いしたのね」

「ううん。私が至らなかったからだと思う……」

「お茶でも立てようか?」

「そうね。久しぶりに飲みたいかな」

「特別に美味しい和菓子があるのよ」

 お祖母ちゃんの自慢の茶室に入るのも久しぶり。
 
 ここに座ると何故か背筋が伸びる。

 見た目も美しい和菓子は芸術作品だと思う。しかも美味しいなんて。

「本当に美味しい」

「でしょう? 紗耶は和菓子好きだったわね」

「練切とか大好きだったなぁ。この頃は食べる機会もなかったけどね」

 美味しい和菓子の後は、お抹茶。作法はやっぱり何となくだけど覚えてる。

「紗耶。暫く泊まっていくでしょう?」

「いいの?」

「涼子が、ゆっくりさせてやってって言ってたわよ。紗耶の気の済むまで居たら良いわ」

「お祖母ちゃん、ありがとう。そうさせてもらおうかな」

「そうなさい」

「はい。お世話になります」

 お祖母ちゃんは優しい眼差しで笑っていた。

 
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