涙の涸れる日
 七月もそろそろ終わる頃。

 兄から離婚が成立したと聞かされた。

 慰謝料も振り込まれるらしい……。

 お金なんかもらっても心に負った傷は治せないのに……。

 何がいけなかったんだろうかと今でも考えてしまう。

 答えなんて誰も教えてくれないのに……。

 
 八月になっても何処にも出掛ける事も出来ずに部屋に籠もる毎日。

 両親や兄に心配を掛けているのは申し訳なく思う。

 けれど出掛ける気力もない。

 食欲もあまりなく食べる量も減った。

 一日ベッドから出られなくて眠ってしまう事もある。

 こんな事していてもしょうがない事はよく分かっているけれど……。

 目が覚めなければ良いのにと思ったり……。

 この世界から私だけが消えてしまいたいとも思う。


 魔法使いになりたかったな……。

 私を知っている全ての人から私の記憶を消せる力が欲しい……。


 そんな事を考える私は生きてる価値すらないのかな?

 息をして心臓が動いているだけじゃ生きているって言わないんだろうな。



 ある日、母が言った。
 母と二人だけの昼食の時間に
「紗耶、お祖母ちゃんに届け物をしてもらえないかしら?」

「何を届けるの?」

「良い御茶碗があってね。つい買ってしまったの。お祖母ちゃん喜ぶと思うのよ」

「御茶碗か……。いいよ。お祖母ちゃんにも会いたいし」

「じゃあ、お願いね」
母は嬉しそうだ。

 もう随分長いこと外に出ていない。
 お祖母ちゃんにも会ってないし。

 離婚の報告に行こうか……。
 余計な心配を掛けるかな……。


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