涙の涸れる日
 俺はマンションを出て、タクシーを拾い、由布子のアパートに向かった。

 チャイムを鳴らす。

「はーい」
 ドアが開いた。
「フフッ。来ると思ってたわ」

「妻に何をした?」

「さぁ? 何もしてないわよ」

「電話したのか? 先週、俺がシャワー浴びてる間に……」

「どうかしら……」

「恍けるのもいい加減にしろ」

「したわよ」

「何を言った?」

「何も言ってないわよ。通話中のままで、貴方に抱かれただけ」

「はぁ?」

「携帯をベッドの傍に置いてね……」

「ふざけるな」
目の前に居るのが女でなければ殴り飛ばしてる。

「佑真の裏の顔を教えてあげたのよ。親切でしょう?」

「妻は出て行った……」

「あら。じゃあこれからは何も心配しないで此処に来られるじゃない?」

「もう終わりだ」

「どうして? 私達、体の相性も最高じゃないの。認めなさいよ」

「俺がバカだった。お前なんかに振り回されて……。自分自身に腹が立ってしょうがないよ」

「別れるとか言わないわよね?」

「別れる? 俺達、付き合ってた訳じゃないだろ? ただ欲の捌け口に利用してただけだ」

「私は違う。ねぇ、愛してるの」

「よくそんな白々しい事が言えるな? 終わりだ」

「嘘よね? また抱いてくれるわよね?」

「止めてくれ。二度と来ない」
部屋を出て乱暴にドアを閉めた。

 情けない。俺は最低だ。

 紗耶にどんなに謝っても許される訳がない。


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