余りもの王女は獣人の国で溺愛される

 そして、言われたことを振り返り私は大いなる勘違いに気づいた。
 政略結婚かと思われたギャレリア王国へ嫁ぐ話。
 なんと、使節団の外交官であるリヒャルト様は私のことを番だと言った。
 獣人の国は一夫一妻で、おのれの唯一無二の番を大切にする種族である。
 自国内に番がいれば幸せなのだが、見つからないとなると他国まで旅をして自身の番を探すのだという。
 運命で、唯一無二の番をこよなく愛して、一生を番に捧げて過ごすのが獣人族の特徴だ。
 その中でも竜人は番至上主義が強く、番への求愛は至上であり、番は人生の最優先事項とも言われている。
 竜人の寿命は獣人族で一番長くおよそ千年。
 成人が百歳の時点で、人族とはかけ離れた存在である。
 その後五百歳までの間に番が見つからないと旅に出てまで探すというし、三百歳くらいの年の差は普通のご夫婦なんだと教科書でも読んでいたのをすっかり忘れていた。

「私が、リヒャルト様の番なのですか?」

 私の問いかけに、リヒャルト様は蕩けるような笑みを浮かべて私の手の甲に口づけをすると言った。

「えぇ、貴方が私の唯一無二の大切な番です。こんなに早く巡り合えたのは僥倖でした」

確かに、マテリカに来ることがなければ気づかなかったかもしれない。
私は十八歳の人間で、下手すれば出会わないまま終わっていたかもしれないのだから。

「マジェリカ様、どうか我がギャレリアに一緒に帰ってほしい。やっと見つけた番と離れることは、身を切り裂かれるようなものなのだ」

 美形の懇願と憂い顔はとてつもない威力を発揮していて、ギャレリアから来た他の二人は私たちを固唾をのんで見守っている。

「リヒャルト様。私は望まれるのであれば、ギャレリアに行くことに否やはございません。よろしくお願いいたします」

 まさか、国のための結婚になると予測していたから、私自身をこんなに望まれるものになるとは思っていなかった。
 結婚することに否やは無いのだが結婚生活がどうなるのか、少し予想がつかないまま私はこの結婚を承諾したのだった。

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