男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 しかし、これはただの夢ではなく、昼間の場面を忠実に再現していた。ゼネダとふたり親しげに肩を並べるセリーヌの姿を認め、居ても立ってもいられずに駆けつけた俺に、彼女が同じ台詞を告げた。俺は無性に苛立ち、横柄な態度で彼女の前から立ち去った。
 その時の彼女は、夢と同じ悲愴な表情をしていた。
 ……後悔とは、後になって悔いること。こんな当たり前を、俺は今になって苦々しい思いで噛みしめていた。
「セリーヌ。お前は俺にとってどこまでも優しい。しかし俺は、お前にとって優しい男ではないな」
 俺の腕を枕にして眠る、あどけない寝顔を見下ろしながら呟く。
 俺の心には、常に彼女への呵責がある。もどかしい思い、葛藤や今のような後悔の念も尽きることがない。
 それらはどれも皇帝としての責務には感じたことのないものばかりで、全てセリーヌを前にして、はじめて芽生えた感情だった。皇帝として極限の中で下す決断にすら悩んだことのなかった俺の心を、唯一セリーヌが揺さぶる。
 彼女の心を得るための最善の道だけが、どうしてか正しい思考で選べない。
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