男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 本当は彼女にとって優しく、頼れる男でありたいのだ。そしてなにより、心細い時に支え合える存在になりたい。それなのに、いざセリーヌを前にすれば、湧き上がる雑多とした感情が冷静な心を失わせ、結果的に彼女の心を遠ざける行いばかりしてしまう。
「こんなにも愛おしく、大切にしたいと思いながら、俺はお前を傷つけてばかりだな」
 彼女の瞳が月光を紡いだような睫毛のカーテンに隠されている今ならば、こんなにも素直に言葉にできるというのに。一国の頂点に立ち『ラインフェルト帝国史上初の軍人皇帝で、カマンドベル大陸最強の富国へと導いた魔物』とまで評される俺の実体のなんと愚かしいことか。
 心の内で自嘲的に笑い、腕の中に深く彼女を抱き寄せる。閉ざされた彼女の目尻のあたりにそっと口づけたら、ほんの僅かに彼女が口角を緩めたように見えた。
 腕に掛かる心地いい重みと温もりを感じながら、俺は彼女が立てる健やかな寝息にそっと耳を傾ける。それは俺の耳に子守歌のように優しい調べで、睡眠よりもっと深い安息をもたらす。
 俺は夜明けまで一睡もせず、セリーヌとの穏やかな時を惜しむように過ごした。

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