男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 溢れるほどの幸福を噛みしめながら、胸の中で小さく疼く思いがあった。この瞬間の幸せを、共に有したい人がいる。
「……サイラス様、ここに呼んでもらいたい人がいます」
「ああ、セリウスだな。今、呼びに行かせ――」
 侍従に指示をするべく立ち上がりかけたサイラス様の腕を取り、緩く首を横に振る。
 もちろん、弟のセリウスにもこの子を見てもらいたい。だけど出産直後の部屋に招き、生まれたばかりの我が子を見てもらいたいと願うのは……。
 私を庇おうと、身を挺して刃の前に立ちはだかった細い背中。阿修羅のように罵るサリー様を諫める、サイラス様とよく似た面差しの凛とした女性――。
「いいえ。呼んでいただきたいのはお義母様……皇太后・エリザベス様です」
 告げた瞬間、サイラス様は驚いたように目を瞠った。
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