男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
「……なんて愚かな。宮廷内での派閥づくりや権力闘争ほど馬鹿らしいことはないというのに」
 扉が閉まった直後、脇に控えていたセリーヌがポツリとこぼした。
 俺に聞かせる意図ではなく思わず口を衝いて出ていた、まさにそんな印象だった。
「ほう、それはどういう意味だ?」
 たまたま耳にした俺は、なんとなく興味を引かれて問いかけた。案の定、セリーヌは問い質されたことに驚いた様子だった。
「し、失礼いたしました!」
「構わん。もう少し具体的に申せ」
 恐縮しきりのセリーヌに続きを促せば、彼女はゆっくりと口を開いた。
「僭越ながら、それらは国力の分散や弱体を招くリスクにしかなり得ません。真の脅威は、豊かな土壌と豊富な水源に恵まれた我が国を虎視眈々と狙う近隣諸国です。国内で不要の権力闘争に明け暮れている場合でありません。宮廷に仕える我ら臣下が一丸となって陛下をお支えし、真の脅威に備えなければいけません。なにより、貴族位に序列はあれど、陛下を支える臣と考えた時に、我らの思いは同列であるべきです」
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