祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 シルフィスは、魔法使いに渡された小瓶の蓋を取って、リシュナの前に置く。
 ナーザは魔法陣の中に立ってリシュナを見つめたまま動こうとしない。シルフィスはそんなナーザを促し、半ば強引に魔法陣の外へと連れ出す。
「ありがとう、ナーザ……シルフィス」
 シルフィスとナーザが魔法陣の外へ出ると、リシュナはふたりに微笑んだ。そして、砂の上の小瓶に目を向けた。
 栗色の髪が器用に瓶に巻きつき、ピンクの唇へと運ぶ。瓶が傾き、中の液体がリシュナの口に流れ込む。
 ゆっくりと秒が過ぎ、リシュナの、首があるはずの辺りが薄く輝き始めた。輝きは霧のように地面に広がり、陣の端に触れると淡い光の壁となって立ち昇った。
 魔法陣をぐるりと囲んだ光のカーテン。
 ナーザが、思わずというように、一歩を踏み出す。
 光のカーテンに、リシュナの横顔の輪郭が、ミルク色に透けていた。リシュナの栗色の髪がふわりと浮き上がり、すうっと伸びたミルク色の影が、けぶる光に包まれて若い女の体の線をかたちづくる。
「……リシュナ」
 ナーザのかすれた呟きが聞こえたように、リシュナは光の中でこちらを向いた。ナーザへと片手を伸ばす。ナーザもリシュナへと手を伸ばす。
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