祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
「王家付きの? 魔女の呪法を姫王の代わりに受けて亡くなった? どうして?」
ナーザのことは、話を聞こうとしていたことも、その態度が突然おかしくなったことも、すっかり頭から抜け落ちていた。
「マクリーン様が王家に仕える前、修行の旅を続けていたのは知ってる?」
「はい」
イストはカウンター内の丸椅子に足を組み、シルフィスはカウンターの外側から身をのりだす。
「あたしがまだ娘の時分にね、この町にいらしたことがあるのよ。乗った船が海竜に襲われて、魔法で追い払ったけれど、ご自分も怪我されて、この町で傷を癒されたの。そのときマクリーン様が逗留した宿で働いていて、お世話させていただいたのがあたしと──」
くるん、とイストの指がシルフィスの背後を指す。その先へと首を巡らすと、ナーザが椅子に座ったまま、ちょっと呆気にとられたふうにこっちを見ていた。
「ナーザの母親のユーリーでね。ふたりとも魔法の才能があるって、特別に教えていただいたのよ。ユーリー──ナーザの母親は、薬草の知識と占い。あたしは、空文の魔法」
あ。ナーザの顔を見て、シルフィスは思い出す。雷帝のことを調べてる最中だった。
イストは、ナーザを指した指をくるくると回した。
「マクリーン様は空中に文字を書いて相手に送れたけど、あたしにはそれほどの力はないから、鏡の魔力を借りるの。相手も、百年以上大切に使われた鏡を持っていることが、文字を送る条件」
イストは、ふふん、と笑う。
「でも、とても稼げるのよ。港に入る船はよいお客なの」
それはそうだろう。商売は情報が命だ。馬で何日もかかる距離を一瞬で飛び越えることのできる空文の魔法は、多少ぼったくられたとしても、是非とも利用したい魔法だろう。
ナーザのことは、話を聞こうとしていたことも、その態度が突然おかしくなったことも、すっかり頭から抜け落ちていた。
「マクリーン様が王家に仕える前、修行の旅を続けていたのは知ってる?」
「はい」
イストはカウンター内の丸椅子に足を組み、シルフィスはカウンターの外側から身をのりだす。
「あたしがまだ娘の時分にね、この町にいらしたことがあるのよ。乗った船が海竜に襲われて、魔法で追い払ったけれど、ご自分も怪我されて、この町で傷を癒されたの。そのときマクリーン様が逗留した宿で働いていて、お世話させていただいたのがあたしと──」
くるん、とイストの指がシルフィスの背後を指す。その先へと首を巡らすと、ナーザが椅子に座ったまま、ちょっと呆気にとられたふうにこっちを見ていた。
「ナーザの母親のユーリーでね。ふたりとも魔法の才能があるって、特別に教えていただいたのよ。ユーリー──ナーザの母親は、薬草の知識と占い。あたしは、空文の魔法」
あ。ナーザの顔を見て、シルフィスは思い出す。雷帝のことを調べてる最中だった。
イストは、ナーザを指した指をくるくると回した。
「マクリーン様は空中に文字を書いて相手に送れたけど、あたしにはそれほどの力はないから、鏡の魔力を借りるの。相手も、百年以上大切に使われた鏡を持っていることが、文字を送る条件」
イストは、ふふん、と笑う。
「でも、とても稼げるのよ。港に入る船はよいお客なの」
それはそうだろう。商売は情報が命だ。馬で何日もかかる距離を一瞬で飛び越えることのできる空文の魔法は、多少ぼったくられたとしても、是非とも利用したい魔法だろう。