祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 ユーリーの表情がほっと緩んだ。何かとても重大な秘密を抱えているように思われたのだろう。
 だが、恋の悩み。
 重大でも、所詮、恋だ。それで人生棒に振っても。
 背後でルチェが、恋だってー、と嬉しそうに囁いて、ナーザが、おまえさー、とたしなめるのが聞こえる。
「でも、これでは参考にならないわね」
 もう一度カードを見渡し、ユーリーはため息をついた。
「ごめんなさいね。探し物が『黒白の書』じゃなければ、もう少しいい助言ができたと思うんだけど」
「いいえ。恋をしていると、初めて口に出せました。気持ちを整理するきっかけにできるかもしれません」
 シルフィスはコインを幾つかテーブルに置いた。王都での占いの相場だった。ユーリーは、あら、とその三分の一を押し返す。
「多過ぎますよ」
 シルフィスは素直に返されたコインを受け取った。王都に比べると、地方ではいろんなものが安い。
 ──さて、これからどうするか。
< 55 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop