祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 手から鏡が滑り落ちそうになって、シルフィスは鏡を抱え込む。
 これは何だ。
 混乱する頭で必死に考える。
 勇者の末裔とは、無論、今上の王を指すのだろう。これは王に宛てた……。
 ネイロフの笑う顔が浮かんだ。───王よ、雷帝を止めてみよ。
 伯父上、これがあなたの復讐か。王と、この国への。
 もう一度、黒い文字を読んだ。光ではなく闇の空文。何故、ネイロフが王へ宛てた空文をこの鏡が拾ったかはわからないが。
「明日……」
 ナーザが呟いた。
「まだ一日ある、ってことだよね」
 シルフィスは頷いた。
「だが、復活の準備はできたということだ」
 ハザン。胸が焼けるように思った。だが。
「……血の乾かないうちに死体を並べる、と言ったよね」
 ナーザに確認する。
「そう。それぞれの死体から出る血が混ざり合う感じに……」
 ならば、まだハザンも『歌うフクロウ』の魔法使いも生かされているかもしれない。儀式を行うギリギリまで。
「行こう」
 鏡をナーザに返すと、踵を返し、ひらりと馬にまたがった。
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