猫かぶりなカップル
「そうそう、あたし猫かぶってたの、ずーっと! あたしが話す言葉、全部嘘だから! 悪いけど!」



勢いでそう言った。



「おい!」



奏が驚いてあたしを見るけど、もう知らない!



もう面倒くさいもん。



今なにか上手いことやる余裕があたしには全くない。



目の前の奏から離れるだけで精一杯だ。



「篠塚くん、これで満足? 誰かに言ったらまじで殺すから」



全部開き直ることにした。



あーあ…、あたしの今までの努力が奏のせいで台無しだ。



でも、あたしの気持ちとは反対に、篠塚くんは目をキラキラ輝かせた。



「くるみちゃん、まじかっけぇ~!うわー!まじ気に入った~」

「え?」

「えっ、くるみって呼んでいい!? っていうか俺と付き合って!」

「はあ!?」

「だってさっきの話からすると、神城と正式に付き合ってるわけじゃないんだよな!?」



何言ってんのこいつ…。



あたしのさっきまでの切羽詰まった感情が、驚きと呆れでどっか行っちゃったよ…。



「俺、前のくるみより今のくるみの方が好きだわ!前はファン程度だったけど、今はファンじゃなくてマジ恋!」



はああ!?



まじで意味がわからない…。



あたしの本性見て好きになる人なんかいるの?



こんなに近い奏すら、あたしのことなんか好きじゃないのに?



そう思ったら、また悲しい気持ちが襲いかかってきた。



奏はあたしがこいつと付き合ったとしても別にどうでもいいんだろうな…。



あたしの本性を好きになったというこの人と付き合ってみたら案外世界が変わるのかな…。



「しの…」



だけど。



あたしが篠塚くんに声をかけようとした瞬間、奏が一歩前に出た。



「くるみは俺のだから手出すんじゃねえよ」



えっ…。



ポケットに手を入れて偉そうな態度で。



なんて言った…?
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