猫かぶりなカップル
「…奏は、あたしに自分を好きになってもいいって教えてくれる人なの」

「自分を好きに?」

「うん。あたし、自分のことがすごく嫌で、心の底でいつもすごく自信がない。でも、奏はそんなあたしを丸ごと受け入れて認めてくれるでしょ?」

「…」

「だから好き…」



あたしのことを『頑張ってる』と言って、あたしという存在を認めてくれた。



今までの生き方を否定しないでくれた。



そして『もう頑張らなくていい』と言って。



奏はあたしをありのままで包み込んでくれるの。



あたしの嫌な部分もあたしとしてそのまま受け止めてくれたから、あたしは自分に自信が持てたんだよ。



嫌だった自分をいつの間にかあたしも好きになることができたんだと思う。



「それにね、あたしと同じように人の前では違う顔をする奏が、あたしだけにはそうやって素の顔を見せてくれたのも、ああ私この人の内側に入れてもらえてるって思えて嬉しかった」

「…確かに俺も、自然とくるみのことを内側に入れているのに驚いたし心地良かった」

「へへ」



はにかむあたしに、奏がそっと頭を撫でた。



優しい手。



愛しい人の手が、目が、あたしを好きだと、愛を訴えてくる。



どちらからか、気がついたらキスしていた。



なんだかすごく…幸せで満たされている。



もっと触れ合ったらどうなるのかな?



コップから水があふれるようにして、満ちた幸せで体中が支配される?



夢中でキスをした。



時間を忘れるくらい…。



少し顔を離して、奏があたしの顔を見た。



そっとあたしの頬を撫でる。



「嫌なら、しない」



奏の優しい声。



あたしのことをいつも考えてくれる。



心の奥底、どこかも分からないくらい深いところがぎゅっと締め付けられた。



奏にもっと触れたいよ…。



「嫌じゃない…」



あたしの言葉に、奏はもう一度あたしにキスをしてから、あたしを抱き上げた。



そのまま、奏の部屋に連れて行かれて、優しくベッドの上に寝かされる。



あたしのことを愛おしそうに見る奏に、ドキドキが止まらなかった。



初めてじゃないのに、初めてみたいな感覚…。



そっか、好きな人とするのってこんなに幸せなことなんだね…。



そのまま一晩、幸福にふけりながら、奏の部屋で夜を明かした。
< 74 / 92 >

この作品をシェア

pagetop