食堂の白井さんとこじらせ御曹司
 菜々さんが誘われて、用事があったからいけなくて、私が代わりに行ったよね?
 用事があったのではなく、菜々さんは初めから行くつもりはなかった?
 一緒に行ってくれないと、和臣さんは知らずに誘っている?
 えっと……。
 ああ、よくわかりません。
 男女の関係は複雑なのです。
 あの二人がいったい、どういう関係で、何を思って行動しているか、分かるはずがありません。
 小さく首を横に振って、スマホをカバンに入れます。
 別のことを考えましょう。
 今日の夕飯は何を食べようかな。この間の魚の特売日に買って冷凍しておいたカジキを使いましょう。
 焼くか煮るか……。

「おはよう白井ちゃん。番号を振るアイデア、いいね」
「おはようございますチーフ。ありがとうございます。これでもう少し円滑に学生とやり取りできるといいんですが」
「そうだね。それにしても、アルバイトの応募はなかなか来ないねぇ」

 さて、今日は約束の女学生さんに化粧を教える日です。
 黒崎さんはいつも、学生と面会するときは学生相談室じゃないそうなので、今回も、事務所の奥の仕切られた場所で行うそうです。
 鏡くらいはあるよね?
 私が家から持ってきたのは、化粧ポーチと、ポーチに入りきらない化粧品。基礎系は説明するために持ってきました。
 リュックに入れられるものは限られています。
 最低限ものもしかありません。あ、あと、コンタクトも持ってきました。
 化粧をするのにコンタクトがないとむつかしいので。眼鏡をはずすと鏡に映った自分の顔の全体像すら見えませんからね。
「お疲れさまでした!」
「はい。大変だねぇ。学生相談室がらみで残業……白井ちゃん辛かったら言うんだよ?」
「ありがとうございますチーフ。大丈夫です。えっと、学生の相談に乗ることになっただけなので、その、学生相談室の黒崎さんはあまり関係ないですし、残業代もしっかり出ますので」
 チーフはくすっと笑いました。白井ちゃんらしいと言っています。
 残業代大事です。
 いつもより少し重たいリュックを背負い、学生相談室へと向かう。
「白井です」
 ノックをしてもいつもの居留守だと思ったので、部屋の中に向かって声を掛けました。
「ああ、白井さん、ありがとうございます。相談のあった学生の名前は村上というんですが、横山という友人と二人で面談場所に待ってもらっています」
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