食堂の白井さんとこじらせ御曹司
 二人が立ち去るのを見送って、黒崎さんが片づけをしている私の前に来ました。
「片付け、手伝います。本当にありがとうございました。白井――」
 ガシャガシャッ。
 黒崎さんが手に持っていた化粧品を派手に落としました。
「ああ、割れてないかな?!」
 慌てて拾ってファンデーションがかけてないのを確認してホッと息を吐きます。
「大丈夫でしたよ」
 と、顔を上げると黒崎さんが固まっていました。
 固まったまま、私の顔を見ています。
 え?
「そ、その、顔……」
 顔?
 まさか、すっぴんと化粧をした時のギャップがありすぎて驚いているということでしょうか?
 さすがに、少しばかり失礼じゃないでしょうか?
「兄貴、終わった?」
 パーテンションの向こうから、菜々さんが顔を出しました。
「え?結梨絵ちゃんが、どうして……」
 菜々さんが手に持っていたカバンを落とします。
「ああ、学生相談室の手伝いで、学生に化粧を教えることになって。菜々さんみたいにうまくはないけれど……」
 菜々さんのカバンを拾って手渡します。
「あ、そ、そうか、そうなの……じゃぁ、兄貴のこととか、その、いろいろと……もうバレて……」
 菜々さんが困惑気味に言葉を発します。
 バレる?
 兄貴?
「あっ、もしかして、菜々さんと黒崎さんは兄妹なんですか?」
 そうだったんだ。
 ああ、だから!
 だから二人で会って話したりしていたんですね。
「え?あ、うん。結梨絵ちゃん……あの、他に、その、気が付いてない?」
 他に?
「菜々さんの眼鏡をするとそっくりだって言うお兄さんって、黒崎さんのことだったんですね。本当に気が付きませんでした」
 と言えば、菜々さんが少し気を取り直したような顔をしました。
「そ、そうなんだ……へへ。うん。学生相談室で兄は働いてるの。黙っててごめんね?」
「いえ。内緒なのは仕方がないですよ。大学内に身内がいるなんてあまり知られたくないですよね。私も黙っていますから」
 にこっと笑うと、菜々さんもにこっと笑い返してくれました。
「白井さん……が、結梨絵さ……」
 黒崎さんがしどろもどろに口を開いています。
 これ、言いたいことを飲み込んでいるようにも見える顔をしています。
 大体、私のフルネームを知った人は同じことを思うようです。
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