食堂の白井さんとこじらせ御曹司
「アーティチョークって、名前は聞いたことがあるけれど、これが?」
「クジラの刺身といい、珍しいメニューがいろいろと出てきますね。今日はここに来られて得しました。菜々さん、ありがとうございます連れてきてくれて」
「うん、よかった。楽しんでくれて」
 菜々さんではなく元カレ(仮)のほうから返事が返ってくる。
「なんで、そっちが返事するの?」
 菜々さんが当然の抗議。
「この店を選んだのが僕だから」
 えーっと。
 二人がにらみ合っている気がします。目線まで見えないからなんとなくそんな気がするだけですが。
「これ、食べ方知ってます?なかなかむつかしいんですよ」
 アーティチョークをつかんでとげとげのガクの部分をガンガン向いていきます。
 そうして、ビニールひもを割いたような髯ひげが出てきたところで、髯もむしっていく。で、最初の大きさの2割~3割になったところで。
「はいどうぞ。ここの白っぽいところ、おいしいですよ」
「え?食べられるところ、これだけなの?」
 元カレ(仮)が、スプーンでアーティチョークの白いところをすくって私の目の前に差し出した。
「おいしいなら、まずは結梨絵さんからどうぞ」
「あ、いや……」
 目の前に差し出されたスプーン。
 スプーンを受け取って、菜々さんに差し出す。
「豆とか平気ならおいしく食べられると思います」
「あ、ありがと」
 菜々さんがパクンとスプーンに乗った白い実を食べた。
「おいしぃ」
 菜々さんのきれいな顔が私の顔のすぐ横に来た。
「結梨絵ちゃんおいしい」
 眼鏡がなくても、この距離ならおいしそうな顔が見えます。
 おいしいものをおいしいっていう顔で食べる人は好きです。食堂で働いているからというだけではないです。
 おいしいものもまずそうにしか食べられない人はかわいそうです。
「あと、知らない人も多いんですけど、この額の根元の白いところも食べられるんですよ?」
 先ほどむしり取ったガクの白い部分にスプーンを当ててこそいで食べる。
「私はどちらかというとこの部分が好きなんです」
 ガクを一つ、元カレ(仮)に差し出す。
「キュウリっぽい味ではないので、大丈夫だと思いますよ」
「ありがとう」
 仲良くちまちまアーティチョークのガクの根元の部分を食べながら酒を飲む。
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